パリ・オペラ座をはじめとする世界の劇場で活躍する振付家、勅使川原三郎が演出・構成・振付・照明・美術・音楽構成を手がける新作ダンス、勅使川原三郎版『羅生門』が、間もなく上演される。勅使川原が芸術監督を務める愛知県芸術劇場にて開催された記者会見では、勅使川原とアーティスティックコラボレーターの佐東利穂子、ゲストのアレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ団)が、作品への思いを語っている。

原作となる芥川龍之介の短編「羅生門」について、「そこに神話を読み取りました」という勅使川原。神話とは、ただ古い物語だから神話なのではなく、現代の私たちが読んだとき、そこに生き生きとした何かが感じられるものが神話として残されるという。「鬼が棲むという羅生門に、下人がやってくる。そこは、死人と死に損ないの人間が放置されている悲惨な状況だが、それはいま私たちが住む時代そのもの。そんな中でさえ、人間には欲望がある。困難、危機の中の狭い狭間にこそ映し出される現実があり、そこから展望できるものとは何か。それを、ダンスのテーマにしたい」。
そのような作品に最も相応しい表現者を求めた勅使川原が「この人だとすぐにわかりました」とオファーしたのが、リアブコだ。輝かしいキャリアを誇りながら「いつもと違う、新しいことをしなければと思っていた」という。コロナ禍の中の厳しい制限下での来日。2週間の隔離生活を経てのリアルの稽古は、会見の前日に漸くスタートしたが、「オンラインでのリハーサルは隔離期間中に始まりました。皮膚を感じ、その内側から外側へと意識を向け、話すのとはまた別の形でのコミュニケーションをとる、いままでにない経験です」。

勅使川原作品に欠かせない存在である佐東利穂子は、「面識のない中で、この話を受けてくれた」とリアブコへの感謝の気持ちを明かす。「身体から感じること、感じようとしていることを、言葉ではなく、お互いに同じように感じ、交換することで学び、動きを創っています」と話す。用意された「あらすじ」には、芥川の短編には描かれていない「鬼」が登場するとある。勅使川原は、「鬼は、もうそこに棲みついているのかもしれないし、あるいは人間の中にあるのかもしれない。神話というのは、そうした面白さがある。」

公演は、8月6日(金)〜8日(日)東京芸術劇場、8月11日(水)愛知県芸術劇場にて開催。チケットは発売中。

文章:加藤智子