歌詞の力を引き出すリリックスピーカーを開発・製造・販売するKOTODAMAの斉藤迅CEO

【メイカーズを追う・3】 今回取材したのは、再生している曲の歌詞をスピーカーのスクリーンに美しく映し出す「リリックスピーカー」を開発したCOTODAMAの斉藤迅CEOだ。歌詞を映し出すといっても、単に文字が流れていくというレベルのものではなく、ビジュアルそのものが聴く人の心をとらえるアートなのだ。東京・南青山にある同社のショールームで、製品開発への思いから今後の展開までを聞いた。


取材/エルステッドインターナショナル代表 永守 知博・BCN+R編集長 細田 立圭志 文/小林 茂樹 写真/松嶋 優子

歌詞の力を表現するスピーカー

私はアートにも関心がある電気屋なのですが、先日、店頭でリリックスピーカーを見たとき、とてもおしゃれだと思いました。斉藤さん自身、もともとアーティストだとうかがっていますが、開発のきっかけはどんなところにあったのでしょうか。

テクノロジーが進化し世の中が便利になるほど、人は幸せで豊かな生活を送れるのかと考えると、必ずしもそうではないと思うんですね。そこで忘れてはならないのは、人がもともと持っていた欲求を進化したテクノロジーで実現することが、喜びや幸せにつながるということです。

そんななか、音楽と人との関係性において一番根源的で重要なことは何かと考えました。それは、音楽を聴くことによって、元気づけられたり、勇気づけられたり、少し前向きになったりと、気持ちに関わる部分だと思ったんです。それをさらに突き詰めると、メロディーもさることながら、歌詞の力がすごく大きいなと。

そこで歌詞を浴びるというか、歌詞の世界にどっぷり浸かるような音楽の聴き方ができたら、ふつうに聴く以上に心を動かして聴くことができるのではないかと思ったことが、この製品の開発のきっかけですね。

私は今のような配信スタイルではなく、小遣いでCDを買って音楽を大事に聴いた世代ですが、当時、歌詞カードをじっくり読んでから曲を聴いた覚えがあります。リリックスピーカーはそうした層に対して、ことさら刺さるような気がしますね。ところで、リリックスピーカーはソフトウェアとハードウェアを組み合わせた製品といえると思いますが、ハードをつくる上での苦労はありましたか。

ソフトウェアだけでなく、それをハードウェアに載せた方が受け入れやすく、それを体験してもらうことで価値を認めてもらいやすいという側面があります。もちろん、ソフトをつくった後にハードの機構をつくるわけですから、2倍の手間と時間がかかるわけで大変ですが、その分、喜びも大きいですね。

そのソフトウェアでどんなことができるかをその場で見せられることから、製品のよさをすぐにわかってもらえるわけですね。ところで、COTODAMAはクリエイティブカンパニーSIXの子会社として設立されていますが、あえてリリックスピーカーの事業を分けた理由は?

最初からグローバル展開を視野に売り歩く

グローバルなブランドとして広めたいと考えたからです。それで、リリックスピーカーによって実現したいことをCOTODAMAという社名で表現しました。

言葉を発するとき、その言葉に魂がこもっていて、それを受け取った人の気持ちが変わったり、ひいては行動が変わって社会が変わったりするということがあります。リリックスピーカーは歌詞という言葉を増幅して、それを浴びることができる装置です。そうしたことを一言で表現できる言葉として、言霊(COTODAMA)を社名にしたわけです。

グローバル展開という部分では、海外の反応はいかがですか。

反応はいいですね。ビートルズで有名なアビーロードスタジオとパートナーシップを結んで音についてのアドバイスをもらったり、イブ・サンローランのコラボレーションモデルになったりしました。

海外の販路開拓は、どのように進められたのですか。

初期の頃は、私がアメリカに行って、めぼしい販売店を見つけてはドアノックで製品説明をして歩くこともしました。ほとんどが門前払いでしたが、仲良くなったロサンゼルスのお店では、クリスマスプレゼントなどの目玉商品にしてずいぶん売ってくれましたね。

その後は、この製品のコンセプトに共感したセレブリティを中心とするユーザーが情報をシェアしてくれたおかげで、かなり知られるようになりました。

国内での反応はどうでしたか。

広がっていったのは、海外とほぼ同時ですね。最初は地道な感じでしたが、ニュースなどで紹介されると、それを見て興味を持ったお客様から問い合わせをいただくようになりました。

アートとテクノロジーでブランドのアップデートを支援

ところで、COTODAMAの製品はリリックスピーカー一本ですね。

はい。ただ、リリックスピーカーはソフトウェアがメインの製品であり、そのメインの部分をいろいろな会社に利用してもらっています。例えば、AlphaTheta(旧パイオニアDJ)と共同でDJツールを開発したり、ライブの演出などを行ったりしています。

そのソフトウェア技術は、他の製品にも生かされているというわけですね。

リリックスピーカーに携わる前は、SIXで映像を中心としたいろいろな体験を提供してきましたが、そのなかにはインタラクティブな映像作品も含まれていました。実はそれがリリックスピーカーの技術的な裏付けになっているのです。

SIXの事業を含め、そうした活動に臨むにあたり、斉藤さんのモチベーションとなっているのはどんな思いなのでしょうか。

いろいろな形でイノベーションを起こしたいということです。僕たちの場合は、クリエイティブとイノベーションの融合、別の言い方をすればアートとテクノロジーが混ざったイノベーションですね。

今後、そのイノベーションをどのように生かしていかれますか。

SIXでは、クライアント(ブランド)とパートナーシップを結んで、クリエイティブを通じたソリューションを提供しています。今後も、そうしたクライアントがその企業の理念や目的を見失うことなく、デジタル社会でそのよさをアップデートし、さらに飛躍するためのお手伝いをしていきたいと考えています。

そうした意味では、リリックスピーカーにも新たなイノベーションがあり、音楽の聴き方をアップデートしているといえますね。

テクノロジーとクリエイティブの両方があるからこそ、人に愛され、人の生活の質を高めることができると思います。

今日は、興味深いお話を聞かせていただきありがとうございました。映像や音楽の分野でも絶えざるイノベーションが起きていることを実感しました。これからのご活躍、期待しております。

斉藤 迅 (さいとう・じん)

クリエイティブディレクター集団SIXの共同執行責任者。世界的に話題になったMV、OK Goの「Obsession」など、デジタルとグローバルをテーマに様々なクリエイティブ/ブランディングを行う。受賞歴にカンヌライオンズ金賞など多数。sixinc.jp