「明治神宮野球場メモリアルグッズ」のスツール、チェア

1926年(大正15年)に開場し、東京六大学野球、高校野球の主要球場として長きにわたって使われた明治神宮野球場。

開場95周年を迎えた今年、多くの「記憶」が刻まれた外野席のシートが、Apple本社にも椅子を納めている世界に名だたる家具メーカー・マルニ木工の手によって新たに椅子に生まれ変わりました。

明治神宮野球場

野球の聖地である明治神宮野球場の座面と背面を使ってスツール、チェアをマルニ木工が設計・製造し、それぞれ個数限定で販売しています。

スツールは1種で限定400脚、チェアは6種あり各60脚。

いずれの商品にも、明治神宮野球場で使われていたことを証明するプレートが付属します。

ファンにとってはたまらない逸品に仕上がった本商品、どんな思いで設計・製造されたのでしょうか。マルニ木工・社長の山中洋さんに話をうかがいました。

フォトギャラリーマルニ木工制作「こだわりの椅子」の細部を写真でじっくり見る
  • 背もたれには明治神宮野球場のプレートもそのままつきます
  • FRPの背もたれに付けられた木はバッドのような有機的な丸みを帯びています
マルニ木工・社長の山中洋さん

どんなにリーズナブルで綺麗でも、座り心地が悪いと、人間は座らなくなる

ーー「明治神宮野球場メモリアルグッズ」のお話の前にマルニ木工の成り立ち、概要をお聞かせください。

山中洋さん(以下、山中) 弊社の創業は93年前になります。私の祖父が創業者で、広島の宮島出身でした。

宮島の厳島神社は全国的にもよく知られていますが、平清盛が厳島神社を作る際、腕利きの宮大工を日本中から集めました。

その歴史的背景から、宮島は宮島彫りやしゃもじといった木工工芸品がたくさん作られていました。

幼少期を宮島で過ごした創業者は、こういった文化や土地柄に触れて木に大変興味を持ち、マルニ木工の前身である「昭和曲木工場」立ち上げ、以降一貫して木製の家具を生産し続けているのがマルニ木工です。

Appleの新社屋にもマルニ木工の家具がズラリ

ーー創業時から変わらぬ企業理念はありますか?

山中 創業者が掲げた「工芸の工業化」というモットーを大切にしています。「工芸」というのは職人の手仕事で作られた、美術品としての印象も強く素晴らしいものがある一方、数も作れないし、時間もかかり、価格も高いものが多いです。

この「工芸」の素晴らしさを残しながら「工業化」していく……つまり、機械を使いながら量産化し、安定した品質の家具を一定量作るという取り組みです。

また、特に椅子などの場合、どんなに価格がリーズナブルでデザインが綺麗であっても、座り心地が悪いと、人間は座らなくなるんですね。そういったことが起こらないよう機能性、品質、耐久性も重要視しています。

ドラマが詰まったスツール、チェアには「過度に手を加えない」

ーーそんなマルニ木工が「明治神宮野球場メモリアルグッズ」としてスツール、チェアをリメイクされることになりました。この経緯をお聞かせください。

山中 「明治神宮野球場メモリアルグッズ」を始めたぴあのご担当者の方からお声がけをいただきました。

「放っておくと使われないまま、捨てられてしまうもの」を形を変えて様々な思い出と一緒に後世に残す……という考え方はすごく良いなと思いました。また、日本はまだ遅れていますが、サステナブルの理念にも合っていると思いました。

我々ができることは微々たることだと思いますが、お力添えできることがあれば是非ご一緒させていただきたい、とすぐにお返事しました。

かつて明治神宮野球場で使われていたスツールそのままの座面

ーー明治神宮球場のスツール、チェアをリメイクする上で、特にこだわった点、あるいはご苦労なさった点があればお聞かせください。

山中 明治神宮球場と言えば、多くの野球ファンの方にとって東京六大学野球の聖地の印象が強いです。様々なドラマがあった球場のスツール、チェアですので、我々が参加するにしても「過度に手を加えないほうが良い」と思いました。

あくまでも主役は、明治神宮球場に設置されていた「背もたれ」と「座面」で、それをサポートする木の部分を限りなくシンプルにするようにしました。

また、材料は違うのですが、木の部分はバットをイメージし全体的な意匠としては丸みをつけました。実際に座ったり、触った際に、かつての明治神宮球場の思い出が蘇ってきたり、昔話に花が咲いたり、このスツール、チェアによってその場が和やかになると良いなと思い、デザインと構造を考えました。

FRPの背もたれに付けられた木はバッドのような有機的な丸みを帯びています

ーー「背もたれ」「座面」に使われている素材・FRPと木のバランスが絶妙ですね。違和感を感じません。

山中 この点は特に注意しました。確かにFRPの「背もたれ」「座面」が日に焼けて色褪せている部分もありますが、もともと強い素材ですので耐久性は申し分ないものです。

また、デザイン的な面で「背もたれ」「座面」は、鮮やかな「青色」を活かすように、木の素材と組み合わせることでもともと持っている意匠を主張できるデザインになったのではないかと思っています。