『赤坂大歌舞伎』が3月8日(金)に東京・赤坂ACTシアターで開幕する。2008年、2010年に続いて3度目の開催。過去2回の経験がありながらも、出演する中村勘九郎にとって、今回の舞台が持つ意味は大きいに違いない。中村屋を率いる存在になった今、十八代目中村勘三郎さんが心を込めた『赤坂大歌舞伎』にどう向き合うのか。その胸中に迫った。
「父が一番に思っていたのは、初めての方にも歌舞伎を楽しんでほしいということでした。それで『狐狸狐狸ばなし』(2008年)や『文七元結』(2010年)といった人情味あふれる喜劇を上演してきたんですが、今回は歌舞伎の幅広さを見ていただきたいな、と。初めて回り舞台も使いますし、早替わりや、滝を使った演出もある。エンタテインメント性の強い作品ですし、何より話がわかりやすいんです」。
上演するのは、三遊亭円朝の人情噺を舞台化した『怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)』。近年では勘三郎さんの得意演目として上演が重ねられてきた。「父の初演は『納涼歌舞伎』の第1回(1990年)ですから、私は8歳でしたが、いまだに印象に残っています。久しぶりに復活するにあたって、父は延若のおじ様(同演目を得意とした三代目實川延若)にお会いしてきた帰りの車中で“いろいろと聞けて面白かった”と楽しそうに話してましたね」。
勘九郎は、絵師・菱川重信、欲のままに生きる小悪党うわばみ三次、重信の下男・正助の三役を演じ分ける。父から習って初めて演じたのは、2011年のこと。「個々の人物をきちんと演じなければ、早替わりショーになってしまう。そこは気をつけなければいけないよ、と言われたのを覚えています」と前回を振り返る。演じる役のとらえ方が実に明解だ。「重信先生は元武士なので、重さと大きさを出して、キリッとしめなければいけない。一方の正助は、本当に純粋で素朴で一本で、かわいらしい男というところを出していきたい。さらに、三次はうわばみっていうぐらいですから、目が肝心。この人と関わっちゃ大変というような小悪党です」。2度目の挑戦ということで、「役に追われないで、役を吸収するような形にしたい。余裕と遊びの部分が必要になってくると思います」と自らにハードルを課す。
「今回も花道は作らず、早替わりは通路でやります。そこの切符をお買い求めの方はお得ですよ」とサービス精神も忘れていない。自らの芸を突き詰めつつ、客席にも心を配った勘三郎さんの姿勢は、確実に受け継がれている。ほかに、重信の妻・お関役で中村七之助、お関を寝取ろうと重信の命を狙う磯貝浪江役で中村獅童が出演。公演は3月8日(金)から24日(日)まで。チケットは2月2日(土)10時より一般発売される。