■少ない出演でも強烈な印象だった『カーネーション』

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綾野剛の長髪にタトゥーというイメージを一気に払拭したのが、2012年のNHK朝ドラ『カーネーション』だった。このドラマでの綾野剛の役は、長崎から岸和田にやってきた紳士服の職人・周防龍一。尾野真千子が演じるヒロイン・糸子と仕事で知り合い、不倫関係になる男だった。

といっても、ドロドロとした雰囲気はなく、周防龍一の素朴で透明感のあるキャラクターは秀逸だったと思う。もともと『カーネーション』は作品としてのクオリティーが高く、戦前から戦後にかけてがむしゃらに働いた糸子のバイタリティーあふれるキャラクターがしっかりと描かれていた。周防龍一はその糸子が唯一恋をした相手だったので、あのキャラクターが活きたんだと思う。全26週のうち、綾野剛が出演していたのはわずか3週程度だったが、強烈な印象を残した作品だった。

 
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2012年4~6月期は、『セカンドバージン』を書いた大石静の作品『クレオパトラな女たち』にも出演していた。低視聴率が原因かどうかはわからないが、8話で終了してしまった作品なので、見ていた人は少ないかもしれない。このドラマは美容クリニックを舞台にしたヒューマンコメディで、綾野剛は都庁に勤めるゲイの役。佐藤隆太が演じる主人公と同居しながらも、その思いは伝わらないという役どころだった。視聴率は低かったものの、かなり面白い作品で、綾野剛のナチュラルな演技も印象的だった。クリニックに勤める看護師を演じていた北乃きいとケンカをするシーンは、やたらとリアルで一見の価値ありだ。

長髪にタトゥーで、本当にこの人ヤバイんじゃないかと思わせるような演技をしていた頃から見ていると、『カーネーション』での職人役や『クレオパトラな女たち』でのゲイ役は、綾野剛の演技力を証明するには十分だった。こうして2012年7~9月期にはフジテレビ系の『リッチマン、プアウーマン』で小栗旬と井浦新の元同僚役として月9出演も果たし、いよいよ大河ドラマに進出することになる。

■大河と同時に連ドラの連投も決定

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2013年の大河ドラマ『八重の桜』は、綾瀬はるかを主演に迎え、幕末のジャンヌ・ダルクといわれる会津の女性・新島八重の生涯を描いている。その初回はかなり期待のもてるものだったが、序盤はまだ会津の事情などを描く部分が多く、綾瀬はるかにはそんなにスポットが当たっていない。そのかわり目立っているのが、会津藩の藩主・松平容保を演じている綾野剛だ。もともと松平容保の人物像が魅力的というのもあるが、その容保を綾野剛は気品と迫力をもって演じていると思う。まさにこれまでの経験が活きている感じだ。ドラマ全体としてはややスピード感に欠けるものの、しばらくは綾野剛と、八重の兄を演じている西島秀俊が、このドラマを引っ張っていってくれそうだ。

綾野剛は、同時にフジテレビ系木曜10時の『最高の離婚』にも出演している。脚本は『Mother』と同じ坂元裕二。瑛太が演じる光生と尾野真千子が演じる結夏、真木よう子が演じる灯里と綾野剛が演じる諒という2組の30代カップルの姿を通して、結婚や家族のあり方について描いている。諒(綾野剛)は美大の助手で、灯里(真木よう子)の旦那さんだが結婚届は出していない状態。一緒に暮らすようになってからも他の複数の女性と付き合っている。ただ、単に軽い男というわけではなくて、幸せを望むのが怖くなっているエピソードも6話では語られている。このドラマはコメディ要素も強いので、綾野剛のまた別の魅力も出ていると思う。2011年にテレ東系の『勇者ヨシヒコと魔王の城』にゲスト出演して、ドタバタのコントっぽいこともやっていたが、コメディはもっとやってもいいような気がする。

今後の綾野剛は、3月31日にフジテレビ系で放送される『アンフェア』のスペシャルドラマ、『ダブル・ミーニング Yes or No?』にもゲスト出演するし、4~6月期のTBS系日曜劇場『空飛ぶ広報室』では、新垣結衣の相手役に決っている。これからも綾野剛には注目だ。

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。

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