トニー賞で6部門を受賞し、グラミー賞、エミー賞にも輝いたブロードウェーのヒットミュージカルを映画化した『ディア・エヴァン・ハンセン』が11月26日から公開される。
監督は、遺伝子の疾患で人とは異なる顔で生まれてきた10歳の少年と家族の姿を描いた『ワンダー 君は太陽』(17)のスティーブン・チョボウスキー。音楽を『ラ・ラ・ランド』(16)『グレイテスト・ショーマン』(17)など、ヒットミュージカル映画に携わってきたベンジ・パセックとジャスティン・ポールが担当。主演は、舞台版でも主人公を演じたベン・プラット。今年の東京国際映画祭のクロージング作品となった。
高校生のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は、コミュニケーションが苦手で友達もなく、母(ジュリアン・ムーア)にも心を開けずにいる。ある日、医者の勧めで自分宛に書いた「Dear Evan Hansen(=親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、図らずも同級生のコナー(コルトン・ライアン)に持ち去られてしまう。
後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自殺したことを知らされる。彼のポケットにはエヴァンの手紙があった。
悲しみに暮れるコナーの両親(ダニー・ピノ、エイミー・アダムス)は、エヴァンの手紙をコナーが書いたものと勘違いし、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。
彼らをこれ以上苦しめたくないと考えたエヴァンは、思わず話を合わせ、促されるままに、ありもしないコナーとの思い出話を語る。
その後、エヴァンの語った作り話が人々の心を打ち、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて世界中に広がり、ひそかに思いを寄せていたコナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)とも親密になるが…。
手紙、身代わり、成りすまし、うそも方便…。これは古典劇『シラノ・ド・ベルジュラック』の変型ではないかと思ったが、それをミュージカル仕立てにし、現代の若者が抱く精神的な苦痛や孤独感、喪失感を抱く大人たち、他人の悲劇を共有するSNSの功罪を反映させているところが今の映画の証しだと感じた。
前半は、『ワンダー 君は太陽』を撮ったチョボスキー監督らしく、善意のうそによって人々が変化し、傷ついた者や弱者が救われていく姿が、歌に乗って心地よく展開していくが、同時に、こんなことがいつまでも続くはずがない、一体エヴァンはいつまでうそをつき続けるのか、どう収拾をつけるのか、という心配ややるせなさを感じて目が離せなくなる。
そして、シリアスなテーマが、「ユー・ウィル・ビー・ファウンド」をはじめとする歌や、時折見られるコミカルなシーンで多少は緩和されるものの、決して安易な救済を描いてはいない後半への変転がリアルに映る仕組みになっている。さて、エヴァンがついた“思いやりのうそ”の結末とは…。
(田中雄二)