新国立劇場の作品創造プロジェクト「こつこつプロジェクト」の第一期作品『あーぶくたった、にいたった』(作:別役実、演出:西沢栄治)が2021年12月7日(火)から同劇場で開幕する。

同劇場の演劇芸術監督を務める小川絵梨子の肝煎りの企画の一つである「こつこつプロジェクト」。「矢継ぎ早にどんどん作品をつくっていく良さはもちろんあると思うが、作り手によっては、じっくり、時が来た時に舞台にあげるようなシステムができないか」と思案した小川は、公共劇場で、通常1ヶ月程度の稽古期間を1年という長い時間をかけ、〈試し〉〈作り〉〈壊し〉〈また作る〉というプロセスを踏めるようにした。英国のナショナルシアターでの事例などを参考にしたというが、なかなか日本の演劇界ではない取り組みだろう。

こつこつプロジェクトの一期には、大澤遊、西悟志、西沢栄治という3人の演出家が参加。それぞれに作品を育て、試演会と協議を経て、この『あーぶくたった、にいたった』が本公演として上演される運びとなった。

11月下旬のある日、稽古場を取材した。

本番までおよそ2週間と迫り、どこかピリピリとした雰囲気なのかと思っていたが、「こつこつ」と作品作りをしてきたからだろう。演出の西沢にも出演者たちにも、焦燥感のようなものは感じられず、むしろ余裕すら感じられた。

例えば、一般家庭の日常を描いた場面。男が出勤前にラジオ体操をしていて、女は男のためにお弁当をこしらえている。淡々と進む会話のなかに、別役らしい可笑しみが感じられる場面だ。俳優たちの演技を一度通してみた後、ちょっとした呼吸や目線に気を配る西沢。たった1行のセリフであっても、俳優たちの思惑を探りつつ、時に自らも実演してみて、よりよい方向はないか検討を重ねていた。

例えば、こつこつプロジェクトの1st Trial(1回目の試演会)では、シーンとシーンの合間に、別役実が書いた別作品『風のセールスマン』からインスパイアされたスケッチを挟み込んだという。多角的に作品にアプローチできる、こつこつプロジェクトならではの試みだ。

ある種とても“贅沢な”物づくりの現場だった。きっと本番を迎えるまでも、もしかしたら迎えた後も、作品はこつこつと育っていく予感がした。一つの集大成となる初日開幕を待ちたい。

出演は山森大輔、浅野令子、木下藤次郎、稲川実代子、龍 昇
公演は12月7日(火)〜19日(日)まで。チケット発売中。

取材・文・撮影:五月女菜穂