(C)松竹 『口上』 市川海老蔵 (C)松竹 『口上』 市川海老蔵

東京・ル テアトル銀座で市川海老蔵が出演する『三月花形歌舞伎』が上演中だ。

当初はシェイクスピア作『オセロー』を上演する予定だったが、オセロー役を勤める市川團十郎さんが体調を崩したため、急遽歌舞伎興行に差し変わったもの。その後、團十郎さんが急逝した。

海老蔵は3日の初日の口上で「このお話を頂戴したときは、公私共に大変お世話になっておりました十八代目中村勘三郎さんのお兄さまの追悼の思いを込めまして、お兄さまから教えていただいた『夏祭浪花鑑』『高坏』を上演し、せめてものご恩返しができればと思った次第でございます」とこの演目を選んだ理由を説明。

続けて勘三郎さんとの思い出話を披露。「お兄さまとは多くの思い出がございますが、ここでは到底お話できないようなことばかりです。『高坏』の次郎冠者をお兄さまがお勤めになったとき、私は高足売を勤めさせていただきました。そのときもお芝居が終わると朝まで(お酒の)お付き合いをしまして、翌日は寝ずに舞台を勤めるということが度々ありました。また、父とお兄さまが父の家で歌舞伎のお話を熱く語られていた際も、私は後輩ですから先に寝ることができず、次の日朝早くからの舞台を勤めながら“あー、早く寝たいな”と思っておりました。『夏祭~』をアリゾナで教えていただいた時も、朝にお稽古、昼にゴルフ、夜はお付き合いと、このときもまったく眠れませんでした。とにかくお兄さまと一緒にいると、一睡もできなかった、という懐かしい思い出でございます」。勘三郎さんの人柄を表す楽しいエピソードに、客席からは笑いと拍手が起きていた。

海老蔵にとって、團十郎さんが亡くなってから初の舞台。「本来ですと父・團十郎がこの舞台に立つ予定でしたが、2月4日にこの世を旅立ちました。この場をお借りして、生前父をご贔屓、ご後援くださいましたこと、心より厚く御礼申し上げます」と挨拶すると、会場から「成田屋!」(市川團十郎家の屋号)という掛け声と大きな拍手が沸き起こった。

その後、パリのオペラ座で『勧進帳』を上演した際、團十郎さんの発案でフランス語で口上を行うことになり、自宅の壁中にフランス語のセリフが貼られていたという話や、星を眺めるのが好きだったという團十郎さんが、公園で星を見ようと30~40分かけて望遠鏡をセットしたのに、海老蔵がそれを蹴飛ばしてしまい、再セットするまで30分待っていたというエピソードを披露。「本当にどこを切っても真面目で律儀な方でございました」と結んだ。

口上の最後には「偉大な父、偉大な先輩の勘三郎のお兄さまに教えていただいたこと、さらにその魂、思いを受け継ぎまして精進努力して参ります」と決意を述べた。

海老蔵は『口上』のほか、『夏祭浪花鑑』では団七九郎兵衛と徳兵衛女房お辰の2役を、『高坏』では次郎冠者を演じる。

公演は3月24日(日)まで。チケットは発売中。