オーティコン補聴器が難聴者とその家族を招いて開催した「我妻ゆりかさんと行く水族館ツアー」の様子をレポートする

聞こえに問題を抱えている難聴者にとって、健聴者と同じように楽しめないことは多くある。補聴器のリーディングメーカーであるオーティコン補聴器は、先端技術を搭載した補聴器を開発・販売するだけでなく、難聴者が健聴者と同じようにさまざまなことを楽しむための企画を実施している。12月5日にはInstagramを活用した「エンジョイモアライフキャンペーン」の特典として用意した「我妻ゆりかさんと行く水族館ツアー」を開催。当日の様子をレポートしたい。

エンジョイモアライフキャンペーンは「補聴器と○○」というテーマの写真をInstagramで募集したもので、応募者のなかから選ばれた3組を「カワスイ 川崎水族館(以下、カワスイ)」に招待した。今回の水族館ツアーは単に水族館を巡るというものではない。難聴者でも楽しめるように五感を使って堪能できる企画をオーティコン補聴器の言語聴覚士が練り上げた。そのあたりが今回のツアーの見所となりそうだ。

招待を受けたのは難聴の子どもをもつ3組の家族。全員が揃ったところで今回のアテンド役である我妻ゆりかさんが登場。我妻さんは“補聴器をつけた天使”として人気急上昇中のタレントで、世間に対して新しい補聴器のイメージを発信している。難聴ユーザーにとってもその存在は有名で、子どもたちも大喜びで我妻さんを迎え入れた。

まずは水族館の入り口で記念撮影を行い、館内へ。カワスイは既存の駅前商業施設にオープンした日本初の水族館で、デジタルを活用した現代的なアプローチを行っている。入り口を入って最初にあらわれるのは身近な川の生きものを展示する「多摩川ゾーン」。プロジェクターでリアルの風景が映し出されており、臨場感ある空間が演出されている。

身近な魚ではあるものの、近くでまじまじと見るのは子どもたちにとって新鮮な体験。今回のツアーでは口元が見える透明マスクを付けた説明員が魚の生態をレクチャー。案内を聞きながら、生き生きと動き回る魚たちを熱心に観察した。カワスイでは魚の生態について、タッチ対応のディスプレイやスマートフォンでより詳細に知ることができる。目で見て触って情報を得ることができる仕組みに、子どもたちも好奇心を刺激されたようだった。

「多摩川ゾーン」の先にあるのは「オセアニア・アジアゾーン」「アフリカゾーン」。徐々に見たことのない特異な形状や色の魚が現れ、子どもたちも息をのむ。プロジェクターによる演出が非日常感をさらに引き立てる。きわめつけはイルカなどの大型の生きものが見られるパノラマスクリーンゾーンだ。ただ映像が流れるだけでなく、身体の動きに合わせて生きものが寄ってくる粋な仕掛けも。触って楽しめる体験に子どもたちも大興奮の様子だった。

カワスイは川の生き物だけでなく、アマゾンに生息する生きものも展示している。今回のツアーでは特別にカピバラとの触れ合いの機会が用意された。アマゾンゾーンは見た目だけでなく、温度管理も本物さながら。都会のど真ん中とは思えない異空間に子どもたちはちょっと緊張の面持ち。だが、愛らしいカピバラが近寄ってくるとすぐに表情は和んだ。

アマゾンゾーンの熱気で汗を流したあとは、今回のツアーのために特別にアレンジされたバックヤードツアーへ。どのように魚を管理しているのか、どのように世話をして、どんな餌を与えているのか、透明マスクを付けた飼育員が分かりやすい言葉で丁寧に説明していく。水族館で使用している厚手の手袋を触ったり、魚ごとに区別している餌のニオイを嗅いだり、子どもたちは聴覚だけでなく五感で水族館の舞台裏を感じ取っているようだった。

ツアーがひと段落したあとは、お土産として子どもたちと我妻さんで廃材を使ったエコバック作りが行われた。無地のエコバックにオーティコンが用意したウサギの補聴器はんこや魚のはんこを使って、思い思いのデザインを加えていく。ここまでのツアーで我妻さんと子どもたちも意気投合したようで、楽しく会話しながら、世界に一つだけのエコバックを作り上げた。

最後に子どもたちと家族、そして我妻さんに話を聞いた。子どもたちに補聴器を見せてほしいと頼むと、誇らしげに耳をこちらに向けてくれた。補聴器はどれもカラフルで個性的。子どもたちが補聴器を日頃から大事にしていることがよく分かった。「毎日装着するのは大変じゃない?」とたずねると、「慣れてるからぜんぜん!」とのこと。ただマスク生活になってからは耳元にかけるものが多く苦労もしているようだ。

ツアーに参加した子どもたちはいずれも生後間もなく行った新生児スクリーニングで難聴であることが判明した。3カ月めから補聴器を装着するようにしたが、幼いときはよく動くので、すぐに補聴器が外れてしまう。家族の方からは「外れたら着けて、外れたら着けて…ずっと集中して見守っていたので気が休まらなかったです」と当事者しか分からない苦労を語った。

しかし、補聴器の装用を始めたことによって、話が聞こえていると分かった瞬間の喜びは格別だったようだ。「少し大きくなってくると、こちらの話に反応して笑ってくれるんです。それからはひたすら話しかけました」と補聴器の存在にいかに助けられたか教えてくれた。

我妻さんも生まれつきの難聴で、子どもたちや家族の苦労がよく分かるようだった。「何度も聞き返していると怒られることもありました。それで引きこもっていた時期もあったんです」と当時を振り返った。ただ「それはすごくもったいないこと」と我妻さんは強調する。「ほとんどの周りの大人はちゃんと受け入れてくれるし、理解してくれる。思いっきりやりたいと思ったことをやってほしい」とエールを送った。

補聴器ユーザーやその家族の悩みには「同じ状況にある家族や子どもについて情報をあまり得られない」ということもあるようだ。SNSが盛んとはいえ、まだ補聴器に対して情報発信するソースは限定されている。オーティコン補聴器では今後も公式Instagram(https://www.instagram.com/oticon_japan/)などを通じて、難聴に悩む家族に情報を発信していくという。ツアーに参加した家族が直面したような「新生児スクリーニングで難聴であることが分かったあとにどうするべきか」などの問題に真摯に向き合いたいという思いがあるようだ。今回の水族館ツアーのように難聴者も健聴者も関係なく、誰でも楽しめる企画にも引き続き、期待したい。(BCN・大蔵大輔)