プライベートブランド「情熱価格」好調の秘密を語るドンキホーテHDの大原孝治社長

過熱する4Kテレビの価格競争。引き金を引いたのは、ディスカウントストア最大手のドン・キホーテだ。6月15日に発売した6万円切りの「ULTRAHD TV 4K液晶テレビ(LE-5050TS4K-BK)」は、わずか1週間で初回生産分の3000台が完売。10月3日に登場した第2弾も発表と同時に予約が殺到した。 激安4Kテレビをラインアップする「情熱価格」は2009年に立ち上がったドン・キホーテのプライベートブランド(PB)で、食品・雑貨・家電まで幅広いアイテムを開発・販売している。

価格一辺倒のイメージをもたれがちだが、実は品質の高い顧客目線のアイディア商品も多い。17年6月期の決算によるとPBの売上構成比は11.0%、粗利構成比は15.9%で、稼ぎ頭に成長しつつある。快進撃といえるPBの伸長の要因はどこにあるのか。また、なぜ流通企業からヒット商品が生まれているのか。ドンキホーテホールディングスの大原孝治 社長兼CEOがその秘密を語った。

メーカーが消費者の需要に応えられない原因は「情報流通の欠落」

―― 6月に発売した格安4Kテレビが大きな話題になりました。なぜメーカーではなく流通企業であるドン・キホーテからヒット商品が生まれたのですか。

大原 日本の流通業界は物流と商流が支配してきた側面があります。ロジックが重視される世界です。一方で、これら2つには情報の流通が欠落している。メーカーは技術者と接点をもっていて、流通は消費者と接点をもっていますが、このメーカーと流通の間で情報が行き交っていません。

したがって、メーカーは消費者が本当に欲しているものが分からないという状況が生まれている。加えて、メーカー独自のブランディングもあって、需要のあるものがつくれていません。

―― ヤマダ電機の山田昇会長も今年5月の「FUNAIブランド」独占販売の発表時に同じことを指摘していました。「メーカーがつくらないから、自分たちでつくるしかない」と。

大原 家電は注目されますが、食品や雑貨も状況は同じです。例えば、「情熱価格」で開発中の商品に“スマートフォン用のお菓子”があります。要するに、手を汚さずにスマホをいじりながら食べられるお菓子です。

昔はテレビでDVDを鑑賞しながらポテトチップスを食べる人のことをカウチポテト族と言っていました。今ならスマホでYoutubeですよね。それなら、カウチスマホ族に向けたお菓子はあるかといえば、メーカーからは出ていないわけです。

―― 次のヒット商品になりそうなユニークな発想ですね。メーカー側から出てこないのはなぜですか。

大原 一消費者としては誰でもスマホの画面を油まみれにしたいとは思わない。それが分かっているのにつくれないのは、消費者の求めるものとメーカーの意図がやはりかみ合っていないんです。先ほどもお話した情報の流通の欠落ですね。

われわれは流通企業だからこそもっている消費者の情報をメーカーに積極的に伝えるようにしています。もしメーカーのブランディングに乗るときは、PBにはしません。企画ごと差し上げます。

―― PBとして発売すればドンキの専売にできますよね。もったいない気がするのですが。

大原 そこでメリットを追求すると、世の中のデメリットになります。せいぜい「1か月だけ先行発売させてくれ」と。それくらいです。

今年はメーカーとアライアンスを強化するために100社と面談しています。そのなかでも「うちの担当者に頭を下げるのをやめてください」と伝えています。流通とメーカーは協力関係にある間柄なわけですから。ドン・キホーテにはバイヤーはいません。「顧客最優先主義」という企業理念が示すように、お客様がバイヤーなのです。

最安だけじゃない 本当に求められる機能を追求

17年の家電カテゴリだけをみても「情熱価格」からは話題のアイテムが多数登場している。冒頭で紹介した4Kテレビはとりわけ注目を集めたが、11月にも税別1万4800円の格安ロボット掃除機を発売。つい値段に目が行きがちだが、ユニークなのは、清掃のみの単機能かと思いきやスマホ連携機能を搭載している点だ。

IoT機能を備えるロボット掃除機は一般的にはハイエンドモデルに分類される。「スマホと連携させてみたいけど、ハイエンドには手が出ない」というユーザーの心理を捉え、低価格だけどIoT家電という新しいアプローチのアイテムを形にした。

ただ大原社長は「われわれはものづくりのプロではない」と断言する。コストとクオリティに見合った製品を提供できるパートナーがいてこそのPBという意識が強いようだ。「流通とメーカーの連携」と言うと使い古された言葉に聞こえるが、ドンキのPB商品快進撃の裏には確実に“製販繁栄”の精神が息づいている。(BCN・大蔵 大輔)