あまりに無防備で、率直で、嘘のない、裸のメッセージ

撮影:(C)岩佐篤樹  拡大画像表示

続く『ラストシーン』は、個人的にこの日のベストアクトだった。ここまでエモーショナルな大橋のボーカルは、もしかしたらはじめて聴いたかもしれない。「歌に心を込める」と言うが、このときの大橋の声はあふれ出る感情を制御できていないように聴こえた。むしろ抑えきれない感情に、自ら身を任せているようでもあった。漠然としすぎた言い方になるが、大橋の歌声はどんどんすごいことになっている。「うまい」とか「声量が大きい」とかではなく、いやもちろんそういう要素もありつつ、なんというか近年ますます「すごい」という領域にいっているのだ。

ここまで書いて、そう言えば前回のツアーレポートでも同じようなことを書いていたのを思い出した( https://ure.pia.co.jp/articles/-/5483?page=3 )。一向に表現力が向上しない自分に呆れつつ、実はこの日のラストシーンはこれまで感じていた「すごさ」とはまた違う衝撃があった。例えるなら装着していた大リーグ養成ギブスがひとつ外れたような、「うわっ人ってこんな声出るの?」というような次元の違う響きがあったのだ。これがツアー50公演目のアンコール2曲目の出来事なのが信じられない。ボーカリスト・大橋卓弥はこの先一体どこまで行ってしまうのだろうか。

ライブの最後に選ばれたのは、アルバム『musium』に収められた小品『またね。』。愛器のギターへ向けたラブソングが、そのままこのツアーに参加したひとりひとりのオーディエンスへのラブソングとなって響いてくる。この曲を演奏する前、大橋はスキマスイッチを代表して今回のツアーに込めた想いを語った。それはミュージシャンとしてあまりに無防備で、率直で、嘘のない、裸の言葉だった。あえて言えば、あそこまで言葉にして語らずとも、彼らが伝えたかったメッセージはこの日のライブ、そしてこれまでの作品やライブを通して、わたしたちにしっかり伝わっていると思う。しかしスキマスイッチのふたりにとっては、おそらくまだ足りないのだ。もっと音楽の中に飛び込んだり、音楽でコミュニケーションをしたり、音楽でつながったり、もっと音楽の中で生きていきたいと本気で願っているのだ。

今回のツアーは、観客へ、互いのメンバーへ、スキマスイッチへ、そして音楽へ向けて捧げられた、「これまでありがとう、そしてこれからもよろしく」という10年目のプロポーズだったのだと思う。最後に大橋の言葉の中から、少しだけ抜粋させてもらう。
 

みなさんの中にあるスキマスイッチのイメージは、
もしかしたら華やかな世界にいるようなイメージかもしれません。
でも僕らは「ただ普通に音楽が好きなふたり」なんです。
自分の居場所を音楽に見つけただけで、みなさんと何も変わりません。
もしみなさんとの間に距離があるのなら、
僕らにもっと近づいて欲しいし、
僕らももっとみなさんに近づいていきたいです。
できればみなさんとずっと同じ目線に立って、
音楽をやっていきたいと思っています。
 

撮影:(C)岩佐篤樹