最先端技術を用いて解析された6体のミイラから、古代エジプト人の生活や文明を解き明かす『特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」』が2月5日、兵庫・神戸市立博物館にて開幕した。
世界最大級の古代エジプト・コレクションを誇り、ミイラ研究の第一線を走るイギリス・大英博物館。これまで世界7か国で180万人以上を動員した同館の国際巡回展を再構成し、日本独自のコンテンツを加えたのが本展だ。主軸となるのは、紀元前800~紀元後100年の約900年の間に生きた6人の人物から作られたミイラ。それぞれ、王家に仕える役人や神官、既婚女性や幼い子どもなど、年齢や性別、職業なども異なるため、古代エジプトに生きた多様な人々の痕跡を知ることができる。
最新のミイラ研究で欠かせないのが、現代の健康診断でも利用されるX線を応用したCTスキャンだ。どのミイラも死者が来世でも生きられるよう願いを込め、熟練の技で丁寧に処置されており、全身は亜麻布の包帯で覆われている。そこでCTスキャンを数千か所にわたり行うと、外装を解くことなく、当時の姿のままで2次元/3次元の画像へと構築することができるという。そのため、実際には見ることのできないミイラ内部の構造や、病理の痕跡も発見できるようになった。本展ではCTスキャン画像をもとにした高精度の映像も見ることができ、6体のミイラの中には動脈硬化やがん、虫歯の痕跡があったものも。死後にミイラ化されるのはいわゆる上流階級の人々で、その裕福な暮らしぶりから今の私たちと変わらない現代病に侵されていたと考えられる。
また、今回の見どころはミイラ本体を通し、ミイラに込められた当時の人々の死生観や信仰心、食や美的感覚などの生活面にも触れられることだろう。数々の展示品は、「食」「健康」「音楽」「家族」などのテーマに沿って並ぶ。乾燥させた内臓を収める「カノポス壺」といったミイラ作りのための器や道具、死者を守る動物型の護符、食べ物や美しい装飾具など、眺めていると時間を忘れてしまうほど。
展示のラストには、本展の日本側監修を務めた河合望・金沢大学教授のチームが発掘した「サッカラ遺跡」のダイナミックな実寸代模型が控えている。遺跡は「カタコンベ」と呼ばれる地下の集団墓地で、その入口と内部を詳細に具現化。通常入ることができない発掘中の様子をうかがい知ることができる、貴重な日本独自の展示に。河合教授は「発掘現場を直に見て、エジプト考古学の面白さ、醍醐味を知っていただければ」と語る。6体のミイラが紡ぐ物語を通して、古代エジプトの人々の生き生きとした生活や、みずみずしい文化の息吹を感じ取れることだろう。開催は5月8日(日)まで。
取材・文:後藤愛