“ラジオ好き”にはたまらない、さまざまな仕掛け

例えば藤尾の番組では、記念すべき100回目の放送の直前に、スキャンダルが報道されてしまう。そんな報道後の藤尾のラジオでの態度は? どんな風に釈明するのか、しないのか? あるいはその話題に触れない? 等々、リスナーの想像力を掻き立てる。

オールナイトニッポン 55周年記念公演 『あの夜を覚えてる』

さらに、トークスキルの高さが評判になっていた藤尾には、ある秘密があった。と、これ以上の説明は野暮だろう。ぜひ上演を見て欲しいところだ。

ラジオ好きにはたまらない番組、でもあるだろう。ラジオの特性のひとつは、リスナーからのメールやツイートによって、番組の流れがまったく変わってくるところ。

言うなればリスナーとパーソナリティーがインタラクティヴにやりとりをすることで、自分も一緒に番組を作っているという感覚を味わえるのだ。

オールナイトニッポン 55周年記念公演 『あの夜を覚えてる』

リスナーとパーソナリティーは、いわば共犯関係にある、と言えばいいか。本作でも、終盤にリスナーから届いたメールが重要なストーリー上のカギを握っている。ラジオフリークは、こんなことが番組の裏で起こっているんだ、という感興を得られるのではないか。少なくとも僕はそうだった。

具体的には、音楽をオペレートするPAが壊れて右往左往したり、体調不良でパーソナリティーが休み、必死で代役を探したり、番組でかけるためのCDが見つからなかったり。つまり、トラブルやハプニングはラジオにつきものであり、それも含めての生っぽさがプラスに作用しているのだ。

転ぶことがあってもそれは当たり前、大事なのは転び方なのである。

ラジオならではの“連帯感・一体感”

本作を観ると様々なスタッフが関わってラジオ番組が作られている、という当たり前の事実に改めて直面するはずだ。

パーソナリティはもちろん、映像部、美術部、音響部、照明部、制作部などが緊密に連動することで、ようやくひとつの番組となる。そうした意味で本作には、ピンチがチャンスになり、主人公が思いがけぬホームランを飛ばす様があり、すこぶる痛快である。

オールナイトニッポン 55周年記念公演 『あの夜を覚えてる』

画面右端に視聴者のコメントがフローしていくチャット機能がついていたのもポイントだ。無論、ニコニコ生放送など、画面上にコメントが流れる仕様を使っていた番組は少なくない。ライヴ・ストリーミング番組のDOMMUNEなどもそうだが、画面横のコメントが、番組の注釈や補足のように機能することもあった。そして、そのシステムをより洗練された形にしたのが本作だと言える。

画面を共有することで、自分と同じ趣味や嗜好を持つリスナーが、リアルタイムで同じ番組を視聴している――。その一体感や連帯感に浸った、という人も多くいるだろう。