コロナ禍にあってここ2年ほど、ライブ活動をはじめとするファンとの直接のコミュニケーションが制限される中、需要を伸ばしているのが、IT技術を駆使してファンサービスを行なう“ファンテック”サービスの分野。
EXILE、三代目J Soul Brothersなど、多くの人気アーティストを擁するLDHとサイバーエージェントは、合弁会社「CyberLDH」を設立し、LDHのアーティストによる映像配信を提供するデジタルコミュニケーションサービス「CL」を2020年8月に開始。プレオープンから1カ月半で有料会員数は10万人を超え、その後も多様なコンテンツを配信し、人気を博している。
今回、このCLのプロダクトオーナーを務めるサイバーエージェントの鈴村唯さんにサービスの開発から運用、リリース後の様々なアップデートなどについて話を伺った。
ファンだけでなくアーティストのユーザビリティも大切に
――コロナ禍を受けて、配信事業、ファンテックサービスに力を入れる会社が増えていますが、「CL」はコロナ以前から企画・開発を進めていたと伺いました。
鈴村 元々、LDHさんには「LDH TV」という、CLの前身となるオンデマンド番組をメインとしたサービスが存在していたのですが、弊社の藤田(晋/代表取締役社長)とHIROさん(LDH)の関わりが強かったということもあり、そのLDH TVを「さらにパワーアップさせたい」という話で開発が始まったのが最初のきっかけです。
おっしゃるとおり、コロナ禍以前から開発は始まっていました。
――企画開発当初はどういうサービスにしようと?
鈴村 LDH TVはオンデマンド番組がメインのサービスだったんですが、加えて「LDH TERMINAL」という生配信が見られるサービスもあり、それらを統合する形で、“動画配信サービスと言えばCL”と代名詞になるような、オンデマンド番組もあり、生配信もあり、さらにペイパービューも入っているサービスにしていこうと。
元々LDH TVでやっていたコンテンツはそのままやっていく方針でしたが、それに加えて、開発段階で新型コロナウイルスの感染拡大という状況に遭遇したこともあって、ペイパービューを実装することと、キャス配信に関しても数を増やして実施していこうという話は挙がっていました。
――サービスや会員設定などで工夫された点について教えてください。
鈴村 LDH TVでは、このサービスとファンクラブの両方に加入していないといけないという会員設定だったんですが、それをCLにするタイミングでCLだけに加入することも可能にしました。LDH TVとファンクラブ、両方の会員だった方も大事にして会員設定をしたいという思いから「プレミアムプラス会員」というものを作りました。
――海外からのファンのための他言語対応や字幕機能など、ユーザビリティの高さも大きな特徴ですね。
鈴村 リアルタイム翻訳機能は、アーティストの方々が実際に配信をされるとき、海外のファンからコメントをいただくことも多いです。「せっかく海外の方からコメントをもらっているので会話が出来るようになりたい」という意見をいただくことがありまして。キャス配信が増えたことで双方向性のコミュニケーションにも注力したかったので、リアルタイムでの翻訳機能を追加しました。
発言している内容が分かることでコメントもしやすくなりますし、アーティストの方々もコメントをタップすると翻訳されたコメントを見ることができるようになりました。
今はオンデマンドの方でも字幕がつけられるようになったり、アプリ内でも端末の設定に合わせた言語で表示されるようになっています。そういう部分はサイバーエージェント側でもABEMAなどでやっていた知見を活かしながら提案・実装させていただきました。
――そもそも、生配信中に町田啓太さんが「海外の方々とキャスを通して会話できるようにしてほしい」と発言したことがきっかけで実現に至ったそうですね? こうしたアーティストの発言にすぐに対応する即応性、柔軟性がすごいですね。
鈴村 LDHさんも海外のユーザーさんにも楽しんでほしいという意向は当初からお持ちで、その中でなにができるのか?と検討していたときに、ちょうど町田さんから配信の中でそういうご意見をいただいたので「ぜひやりたいね」という話になりました。
CLでは、ユーザーのみなさんのユーザビリティだけでなく、アーティストのみなさんのユーザビリティという部分を合わせた両軸を大切にしています。アーティストのみなさんが使われる中で「こうしたい」という意見をくださるのであれば、そこにはできる限り柔軟に対応できればと思っています。