配信の魅力【2】座席位置にとらわれず、あらゆるアングルから観劇できる
劇場で座る座席は、位置によってステージの見え方が大きく異なります。
「前方席は役者の表情がよく見えるな」とか、「後方席はステージから遠いけど、全体の動きや演出が見やすいな」といった感覚は、多くの人が経験しているはず。劇場では、座る位置によって見える世界が違う、と言っても良いでしょう。
劇場での生観劇では、この「視点」が変わることはありません。通常、1回の公演で見えるアングルは1つの角度のみです(それこそが、生観劇の魅力でもありますが)。
でもオンライン配信では、複数のアングルからステージを見ることができます。最前列よりも近い表情のアップから、後方席よりも見やすく引いた全景まで、さまざまな角度を楽しめるのです。
たとえば、引きのアングルだから際立つ「ライティングの美しさ」「セットの世界観」「役者同士の絶妙な連携具合(動きや立ち位置)」など。また、アップだからこそ確認できる「役者の表情」「細かい動き」「小道具の細部」など。
これら複数のアングルを一度にまとめて楽しむことができるのは、オンライン配信の醍醐味でしょう。
公演によっては「スイッチング映像/全景映像/VR版」など、ある程度自分でアングルを選べる場合もあり、文字通り「あらゆる角度から」作品を楽しむことが可能です。
配信の魅力【3】作品の新たな一面を発見できる
「オンライン配信は、いろんなアングルからステージを見ることができる」……とは言え、「自由に切り替えられるわけじゃないしなぁ」と残念に思うこともあるでしょう。私自身、そう思うときがあります。
でもたくさんの配信を見ていくうちに、「この不自由さもオンライン配信の魅力の一つかもしれない」と気づいたのです。
◆自力でコントロールできないからこそ、見える世界
生観劇と異なり、配信では自分の視界をコントロールすることができません。つまり「推しだけをずっと見続ける」といったことができないわけですが、逆に考えればこれは、作品やキャストの新たな魅力を発見するチャンスでもあります。
劇場ですでに観た作品を、ライブビューイングや配信で再度観たときに「この場面、こんなことしてたっけ?」とびっくりした経験をお持ちの方は、案外多いのではないでしょうか。
ステージ全体を見ているつもりでも、視線は意外と一つの場所に集中していたりするもの。自分の意識も無意識もすべて取っ払って受け止める「配信ならではの景色」には、今まで気づかなかった演出や、それまで注目していなかった俳優の素晴らしい演技が映し出されているかもしれません。
◆複数公演を見比べて、初めて見えてくる発見
また、作品によっては「初日と千秋楽をそれぞれ配信しているケース」「Wキャストの両バージョンを配信しているケース」「全公演をリアルタイムで配信するケース」……など、さまざまな趣向が凝らされています。
1つの演目を複数バージョン見比べることで気づく発見もあるでしょう。分かりやすい例を挙げると、先程から紹介してきた舞台『刀剣乱舞』シリーズには、1つの演目を複数回観ることで初めて分かる発見がいくつも隠されています。
この傾向がとくに顕著なのが、シリーズ6作目にあたる「舞台『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰」です。こちらの演目は、「全53公演の道のりを経てたどり着いた大千秋楽公演のみ、クライマックスの展開が劇的に変わる」という異例の仕掛けで知られています。
なぜ千秋楽のみ展開が変わるのか、その答えは劇中に秘められています。個人的に、初めてその仕掛けを知ったときには「なんてものを創るんだ」と(良い意味で)愕然とさせられました。演劇という媒体と物語そのものとがこれほど密な関係にある作品を、私は他に知りません。
DMM.comには「明治座特別公演ver」と「大千秋楽公演」の2公演がアーカイブされています。興味のある方には、ぜひ両方とも鑑賞して見比べてほしい作品です。
こうした「見比べる」楽しみ方を自分の好きなタイミングで選択できるのも、配信ならではの魅力ではないでしょうか。