前進座が恒例にしている国立劇場での歌舞伎公演が間もなく開幕する。鶴屋南北作の古典歌舞伎『杜若艶色紫』(かきつばたいろもえどぞめ)は、「悪婆もの」と呼ばれるジャンルの歌舞伎で、主人公のお六は、今風で言うところの「ダークヒロイン」。破戒坊主の相棒とグルになって悪事に手を染めていたが、その悪事をきっかけに実の妹・八ツ橋が殺されてしまい、そこから改心してゆくという物語だ。

主人公の悪婆・お六と、花魁・八ツ橋の二役を演じるのは六代目河原崎國太郎。祖父の五世国太郎は「悪婆ものの国太郎」と呼ばれるほど、晩年近くにこのジャンルの役々で名演を残したことで知られる。その三十三回忌の追善公演で、お六、八ツ橋ともに初役でつとめる。
「お六は、ただの悪役ではなく、信念を持って行動する女性。頼りない夫の伝兵衛を食わせ、その弟の金五郎のかけ落ちを助けたりする。夫や身内を守るために相棒だった男をばっさり裏切る。自立していて、ある意味、現代的な女性像だと思います。そういう姿が痛快だから、江戸のご見物衆に大いに受けたのではないでしょうか。」

文化12年(1815)の初演は、五世岩井半四郎が二役を演じて大ヒットだったという。タイトルにある「杜若」は、上演月の季節の花と半四郎の俳名「とじゃく」にかけたものだそう。
南北劇には定評がある前進座が、全員初役で臨む41年ぶりの上演。願哲役の藤川矢之輔の愛嬌ある敵役や、佐野次郎左衛門を演じる嵐芳三郎の二枚目ぶりも楽しみだ。

また、公演期間中には、五世国太郎の舞台衣装や写真などのロビー展示や、國太郎も出演するアフタートーク(5/21の15時開演の部)など、先代を偲ぶイベントが企画されている。