ドイツ・ケルン市が運営するルートヴィヒ美術館から、珠玉の152点が来日。「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション」が9月26日(月)まで、国立新美術館 東京・六本木で開催されている。
副題にもあるように、ルートヴィヒ美術館の膨大なコレクションは、多くの市民コレクターによって形づくられてきた。その象徴とも言えるのが、本展の冒頭に飾られた2枚の肖像画だ。1枚はドイツ近代美術のコレクターであったヨーゼフ・ハウプリヒ。そしてもう1枚がペーター・ルートヴィヒ。ペーターは妻のイレーネと共に、ポップ・アートをはじめ、ピカソやロシア・アヴァンギャルドなどを収集。そのコレクションは多岐にわたり、彼らが1976年にケルン市に寄贈した約350点もの作品が、この美術館の礎となっている。
序章を含め全8章で構成される本展。1章の「ドイツ・モダニズム――新たな芸術表現を求めて」では、ハウプリヒのコレクションを中心に、19世紀末から20世紀初めにドイツで生まれた、新たな芸術運動の作品群を堪能することが出来る。また写真コレクションは、レオ・フリッツ&レナーテ・グルーバーというコレクターの存在なくしては実現し得なかったもので、その数約7万点とヨーロッパ屈指の規模を誇る。
「ピカソとその周辺――色と形の解放」では、パブロ・ピカソ《アーティチョークを持つ女》を展示。一般公開に先立ち開催されたプレス内覧会のギャラリートークで、ルートヴィヒ美術館のイルマーズ・ズィヴィオー館長は、「私共のコレクションの中でも、“ハイライト”と呼べるような作品をお届け出来て嬉しい」と語っているが、本作はその言葉を象徴する一作と言える。さらに館長は「こちらは《ゲルニカ》と同じ1941年の作で、テーマも同じ“反戦”。今現在、ヨーロッパで戦争が起きている中、私共がこの絵を貸出させていただくことには意味があると思っております」と続けた。
「ポップ・アートと日常のリアリティ」では、ルートヴィヒ夫妻が短期間で爆発的に収集したというポップ・アートを紹介。アンディ・ウォーホルを始め、ジャスパー・ジョーンズやロイ・リキテンスタインなど、日本でも人気の高い作家陣の作品が並ぶ。また最後を締めくくる7章「拡張する美術――1970年代から今日まで」に展示されているカーチャ・ノヴィツコヴァ《近似(ハシビロコウ)》は、場内で唯一撮影可能な作品。SNSを想定した一作で、鑑賞者の行動によりさらなる広がりを見せる、まさに今を生きるアートとなっている。
取材・文:野上瑠美子