歌舞伎や日本舞踊などの舞台で演奏される“邦楽囃子”。締太鼓や大鼓、小鼓、笛のメイン4種の演奏のほか、さらに山奥のこだまや雷の音、亡霊が登場するときの曲など、50種類近くの楽器を使い分けるのが“囃子方”だ。「佐幸会」は、その邦楽囃子演奏家・田中佐幸を代表として、“邦楽囃子”の伝承と普及を目指して活動。田中佐幸の息子で、「お囃子プロジェクト」主宰としても活躍中の望月秀幸は、今回の特別公演について「古典邦楽の貴重な演目を選んでいます」と意気込む。

演目は3つ。まず「長唄 翁千歳(おきなせんざい)」は、五穀豊穣・国土安穏を祈る儀式的祝言曲として知られ、その格式の高さから上演されること自体が希少だという。続く「素囃子 三番叟(さんばそう)」は、足踏みによって土を耕し、大地を目覚めさせる存在の“三番叟”を表した演目。邦楽囃子のみで演奏することはこちらもまれだそうだ。
「もともと、長唄『翁千歳三番叟』というひとつの楽曲なのですが、今回は冒頭から翁送りまでを『翁千歳』、揉みの段・鈴の段を『三番叟』としてお送りします。どちらも古典奏法を重視した演目で、演奏する側からするととても難しくて、今からプレッシャーで胃が痛いくらいなんですよ(笑)」という秀幸。
「演奏は僕も含めて若手メンバーですが、そこは大先輩の梅屋福太郎先生にご指導いただいて、必死にお稽古をしているところ。大元である能楽の『翁』を勉強して、それから邦楽囃子としての演奏を稽古して、と時間はかかりますが、大きなチャレンジなのでぜひ成果を残したいですね」と表情を引き締める。

3つめの「日本舞踊 七福神」は、イザナギやイザナミ、恵比寿などが登場し、華やかに展開する人気の演目だ。
「田中佐幸は中村勘三郎(十八代目)さんの公演で演奏することが多かったのですが、『七福神』は、特にその勘三郎さんとご一緒させていただく機会が多かった演目。舞踊と共に送る明るい曲なので、最後は肩の力を抜いて楽しんでいただければ」と秀幸は話す。
さらに当日は、歌舞伎座イヤホンガイドを担当している鈴木裕里子氏が演目解説をした冊子を、無料で配布する予定だ。「邦楽に興味を持っている方が“もう一歩”を踏み出す手助けになればうれしい」(秀幸)と、こんなところにも工夫をこらしている。

「芸歴55年の父・田中佐幸の世代と、いま40歳の僕の世代では、邦楽が置かれている状況はかなり変わりました。父ともよく話すのですが、この状況下だからこそ、僕らの世代が積極的に活動をしていかなければ(邦楽が)無くなってしまうよ、と。この特別公演もそんなところから始まったので、ぜひ幅広いお客様に観ていただきたいです」と秀幸。本作は“邦楽囃子”の奥深さを見て、聴ける、貴重な機会になりそうだ。

取材・文/藤野さくら