撮影:岡千里

5年ぶり、3度目の上演となる『気づかいルーシー』が幕を開けた。松尾スズキの絵本を原作に誕生した、子どもから大人まで楽しめる音楽劇は、どんな進化を遂げているのか。脚本・演出・出演のノゾエ征爾(劇団はえぎわ)が、待望の再再演を語った。

今回の上演にあたってはまず、「ワクワクして臨むためにも、演者自身がちょっと焦るくらいの負荷をプラスしたい」と考えたノゾエ。楽器を鳴らしたり、前は動きのなかったところで動いたり、役者はやることが増えた。
もちろん、ただ増やそうとしたわけではなく、「やればやるほど、まだ奥があったなというところが見つかる。それくらい松尾さんの絵本には、一見くだらないけど(笑)本質的なことが描かれていて、果てしないんです」。
だから、例えば歌詞が増えた歌もある。芝居にも動きにも音楽にも、よりいろいろな要素が散りばめられて、どこを楽しんでも良しの懐の深い劇になっている。

それぞれを悲しませまいと気づかうことで、どんどん複雑に、面白いことになっていくこのお話。その中心にいるルーシーを演じる岸井ゆきのについては、「無邪気さの純度が上がっていて、そこに細やかな表現の力が加わっているので、人としての輪郭がくっきりとしてきた」とか。ルーシーが恋に落ちる王子様役の栗原類は、「ますます唯一無二感が深くなっていてサイケデリックで、ルーシーと並んだときの独特な絵面は最高です」。ルーシーのおじいさん役の小野寺修二は、「ご本人は若々しくなった感じなのに、落ち着いたおじいさん感を出してくださっている」という。そしてそこに新しく加わったのが馬を演じる大鶴佐助だ。「いろんな角度からトライしてくれるのがみんなの刺激になっていますし、しなやかな身体でまさしく動物だと感じる動きもやってくれているし。期待以上でした(笑)」。

“気づかい”というテーマも、コロナ禍において、「気をつかわなければいけないとか、気疲れするといったことが、より生々しくリアルになってきた」。だからこそ、ここで描かれるやさしくハッピーな世界は、人が人と生きるうえでの希望でもある。「演劇は、観劇も含め、人と人が出会うということだと思っています。人と関わるのは面倒くさくて大変ですけど(笑)。でも、この人と人が交わる行いから、いいものもあるでしょと、肯定できる空気感が届けばいいなと思っているんです」。

取材・文:大内弓子