
「血の婚礼」の稽古場に足を踏み入れると、ミュージシャンの奏でるギターとチェロ、パーカッションが響いていた。憂いを帯びた調べが、物語の舞台であるスペイン・アンダルシアの空気を運んでくるかのよう。
第一幕は、“花婿”(須賀健太)と花婿の母(安蘭けい)のやりとりで始まる。これからプロポーズをしようという花婿の明るい表情とは反対に、浮かない様子の母。ふたりのギャップ、あるいは温度差のようなものが、不穏な空気を漂わせる幕開けだ。
プロポーズは無事受け入れられるが、“花嫁”(早見あかり)は結婚を素直に喜べずにいる。そして花嫁は3年前にレオナルド(木村達成)と恋仲であったこと、その後レオナルドは花嫁のいとこ(南沢奈央)と結婚し、子どももいることが描かれる。一方、かつての恋人が結婚することを聞いたレオナルドは、苛立ちを露に。そんな彼を見て妻も傷つく。
それぞれに複雑な思いを抱えつつ迎えた、結婚式の日。多くの人が集まり、にぎやかな宴が繰り広げられている最中に、レオナルドと花嫁が姿を消す。ふたりが逃げたと知った花婿は、一族の男たちと共にふたりを追うことに。
そして第二幕、花婿がふたりに追いついた。男たちは争い始め……。
この日の通し稽古で、舞台上にあるのは仮のセット。俳優たちもカンパニーTシャツの稽古着姿だ。それでも登場人物の激しい感情がぶつかり合って場を圧倒し、観る者を惹き込む。特に、荒々しく周囲の人間も自分自身をも傷つけずにはいられない、しかしどこか艶めいた磁力を放つ木村の佇まいが目を引いた。一方、花婿役の須賀が見せる、前半の人のよい好青年ぶりと後半の怒りをむき出しにした姿との振り幅の大きさも見事。そして、早見は自身の内なる思いへのもどかしさと、レオナルドへの愛を自覚した後の感情の爆発を見せる。また、安蘭も因縁に彩られた愛と憎しみ、さらに兼役で演じる“とある役”の無慈悲なまでの美しさを体現。彼らが体当たりの演技で表現する、痛々しく、しかしだからこそ愛おしい人間の姿に、観客は心を揺さぶられるだろう。千秋楽までにどれほど深化し完成度が高まっていくのか、灼熱のようなステージが期待できそうだ。
取材・文:金井まゆみ