(左から)北条義時役の小栗旬、初役の福地桃子、北条泰時役の坂口健太郎 (C)NHK

 「自業自得だ!」「もう一度、申してみよ」「父上には、人の心がないのですか。比奈さんが出て行ったのだって、元はといえば、父上が非道なまねをした…」

 NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。9月4日に放送された第34回「理想の結婚」では、主人公・北条義時(小栗旬)の再婚話と、3代将軍・源実朝(柿澤勇人)の結婚を巡るエピソードを軸に物語が展開した。

 冒頭に引用したのは、義時が長男・泰時(坂口健太郎)に、再婚を考えていることを伝えた際のやり取りだ。

 比企一族を滅ぼしたことに関連し、比企出身の妻・比奈(堀田真由)と別れて間もない義時に、「比奈さんを追い出しておいて、もう新しい女子ですか」と反発する泰時。

 これを、「父上だって、おさみしいんですよ」とかばった妻・初(福地桃子)の言葉を受けて飛び出したのが、泰時の「自業自得だ!」だ。これに対して義時が、「もう一度、申してみよ」と気色ばんだのだ。

 真っすぐな性格の泰時は、比企一族を滅ぼし、源頼家(金子大地)を暗殺した父の決断を許せず、しばしば義時を真正面から批判する。だが、2人の間には、単なる対立とは異なる親子ならではの複雑な感情が横たわっている。

 そのため、冒頭に引用した2人のやりとりも、最終的には初に平手打ちをされて泰時がその場を去った後、義時に向けた初の次の言葉で締めくくられる。

 「わかってると思うんです、あの人だって。比奈さんがいてくれて、どんなに救われたか。よく話してくれます。分かってはいるんです」

 義時と泰時が互いをどう思っているかについて、それぞれが口にする場面もあった。まず、泰時はこの回の冒頭、源頼朝(大泉洋)の形見である小さな観音像を義時から譲り受けた後、初に「父はこれを持っていると、心が痛むのだ。自分がしたことを責められているようで、堪らないのだ。だから私に押し付ける」と語る。

 さらに、「今の話を聞いて、どう思った?」と尋ねられた初が、「父上のこと、嫌いなんだなって」と答えると、泰時は「嫌いというのは、少し違う」と返す。

 一方、泰時に対する義時の思いについては、前回、端的に語った場面があった。頼家暗殺という重大な決断を下した義時に対して、「私は承服できません!」と怒りをあらわにした泰時は、それを阻止しようと頼家の下へ。これを止めなかった理由を尋ねる弟の時房(瀬戸康史)に、義時はこう答える。

 「太郎(=泰時)はかつての私なのだ。あれは、私なんだ」

 親として、息子の泰時にかつての自分を見ている義時。そうとは知らず、真っすぐな思いを父にぶつける泰時。決して憎み合っているわけではないこの2人の関係は、物語の原動力の一つになっている。その好例が、この回にあった。

 気まずい関係が続く中、身の回りの世話をしている実朝の様子について、泰時は「このところ、鎌倉殿の顔色が優れません」と義時に伝える。

 勉学で多忙なせいか、結婚の問題で悩んでいるのか、その理由ははっきりしないものの、義時は「太郎、伝えてくれて、助かった」とねぎらいの言葉を掛ける。

 そして後半、和田義盛(横田栄司)が実朝を御所からこっそり連れ出し、自分の館で鹿汁を振る舞おうとする現場に義時が遭遇する。

 だが、義時はそれをとがめることなく、「私も、相伴にあずかってもよろしいかな」と、共に鍋を囲み、実朝に気分転換の機会を与える。

 つまり、泰時の報告がこの義時の行動につながったわけで、見事な親子の連係プレーと言える。

 複雑な感情を抱えながらも、共に鎌倉幕府を支える義時と泰時は、最終的に2代執権、3代執権となり、権力を受け継いでいくことになる。この親子の関係が、これからどのように物語を動かしていくのか。その行方にも注目していきたい。

(井上健一)