
2017年の『リチャード三世』で観客に大きな衝撃を与えた、ルーマニアの巨匠シルヴィウ・プルカレーテと佐々木蔵之介のタッグが再び実現。今回はモリエールの名作『守銭奴』に挑む。そこで主人公のアルパゴンを演じる佐々木に話を訊いた。
5年前のプルカレーテとのクリエイションの日々について、佐々木は興奮気味にこう語る。「このシーンはこうであろうという僕たち俳優の考えが、毎回稽古場で覆されるんです。別にテキストを無視しているわけではないのですが、驚くべき演出が繰り返されていく。ただ2、3時間もするとご本人は帰ってしまうので(笑)、あとは僕らだけの復習の時間。でも次の日には、またガラリとプランを変えてこられる。だから作っては壊し、作っては壊しをやる楽しみがあって。とにかく僕が惹かれたのは、プルカレーテさんの演劇を作る視点の面白さ。これは客席で観たい!と思ったほど、毎日の稽古が非常に刺激的でした」
念願の再会となる『守銭奴』。佐々木演じるアルパゴンと言えば…。「“ケチ”ではなくて“どケチ”、よく言えば究極の倹約家ですよね(笑)。ケチの具合が度を越していますから。自分の子供たちよりも、とにかく金を愛している。何よりも優先すべきは金!だから彼にとっては本当に大変な、生きるか、死ぬかの1日で…。まぁ1ミリも共感はしませんが(笑)。ただやはりこれは演劇だからやれる、という面はあると思います。やっぱり舞台と客席が、ある種の了解の上で進めていかなければいけない作品なので。それはつまり、やりがいのある作品ということだと思います」
プルカレーテの舞台が唯一無二の魅力を放つ理由は、驚きの演出とドラゴッシュ・ブハジャール(舞台美術・照明・衣裳)による劇空間の美しさ。「前回のような、ああいうグロテスクで残酷な作品を、あれだけ美しく見せることが出来ますし、さらにその中には絶対にユーモアが調合されている。リチャードの時は最後、みんなで歌って踊っていましたからね(笑)。今回も僕らが考えるような喜劇とはまた違う匂いの、彩りの、笑いなり何なりがあるんだろうなと。ただの喜劇にはならないでしょうし、またいろんなことで驚かされると思います」
そんなプルカレーテの世界の住人になるため、俳優に必要なものとは?「その登場人物の哲学を迷わずにやり遂げる、ということでしょうか。きっと今回のアルパゴンにしても、ただのどケチにはならないと思いますよ」
取材・文:野上瑠美子