舞台『A・NUMBER』が10月7日(金)から東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAほかで開幕する。

本作は英国の劇作家キャリル・チャーチルが手掛け、2002年にロンドン・ロイヤルコート・シアターで初演された話題作。今回は、第29回読売演劇大賞で最優秀演出家賞を受賞した上村聡史の演出のもと、戸次重幸と益岡徹による二人芝居として上演される。

クローン技術が進み、人間のクローンをつくることも技術的には可能だが、法的にはグレーゾーンにあたる、そんな近未来。自分が実はクローンだったと知った息子と、父の対話から舞台は始まる。父は、亡くなった実の息子を取り戻したくて医療機関に息子のクローンをつくり出してもらったと言うが、実は医療機関のほうでは依頼者には黙って一人ではなく複数のクローンをつくっていたらしい。父親は、なぜ息子のクローンをつくったのか。自分がクローンだと分かった息子は、どうするのかーー。

息子を演じる戸次は、脚本を精読するいわゆる本読み稽古を経て、内容の理解が深まったものの、「スッと頭に入ってこない、難解な話でした」と脚本の第一印象を素直に語る。ただ一方で、「観た後には心地よい疲労感を感じてもらいたい」とも話す。「例えば、ジョギングって疲れますが、ジョギング後の疲労感って辛いものではないですよね。今回の舞台もそれに似たものを感じていただけるのではないかなと思っています。確かに理解をするために頭を使うけれど、単なる娯楽作品ではなく、絶対に何か持ち帰れるものがあるような作品になりそうです」。

父を演じる益岡も「この本には背景の説明がほとんどなく、セリフしか書いていないんですよ。もう少し説明をしてくれたら違うだろうなという付け足しも含めて、上村さんが頭を絞っているところです。我々役者は頭がパンパンになっているんですけど、それこそが幸せな状態なんだろうなと思います」と苦労と充実感をにじませる。そして、「上演時間も1時間ぐらい。お客さんの集中が欠かせない条件なので、ちょうどいい気がします」。

互いの印象や稽古場での様子を聞くと、戸次は「毎日贅沢な時間を過ごしています。益岡さんとお芝居をつくることができて幸せ。一緒に切磋琢磨して、同じ苦労ができていること自体も楽しい」と話し、益岡は「戸次さんはちゃんと芝居を渡してくれる安心感がある。しっかりとやってくれているので、大したものです。ずっとこの状態で進化していけたら」と語った。

東京公演は10月16日(火)まで。その後、名古屋、仙台、札幌、兵庫を巡回する予定。

取材・文:五月女菜穂