大阪市と文楽協会が主催し、文楽の新たなファン獲得のため中之島中央公会堂で開催している『中之島文楽』。一昨年は公演中止、昨年は人数制限で上演、3年ぶりに元の規模で開催する8回目の今回、文楽初心者に向けての取り組みを練り直した。ひとつの公演で、文楽で代表的なふたつの「道行(みちゆき)」を同じ演者がやるという、本公演では観られない特別プログラムだ。三角関係の恋のバトルを展開する『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』の「道行恋の苧環(みちゆきこいのおだまき)」と、切ない愛の逃避行を描く『曽根崎心中』の「天神森(てんじんのもり)の段」。この「道行」2本同時上演の2日間に挑む技芸員たち、太夫・竹本織太夫、三味線・鶴澤燕三(えんざ)、人形遣い・吉田玉男と吉田一輔(いちすけ)が記者会見を行い、「道行」の魅力や企画公演への意気込みを語った。
大河ドラマのような“時代物”の芝居で、全編で10時間超という長編大作の『妹背山』。その中で「道行」は約30分だ。また、トレンディドラマ風な“世話物”の代表格『曽根崎』は2時間半の芝居で、「道行」は25分。前後の物語を知らない観客のために、公演の冒頭に映像を用いて人物相関図や物語を解説、パンフレットにも掲載する。また、公演中は舞台上部に字幕スーパーも設置。4人が初心者に向けて「道行」を語った。「旋律の美しさ、三味線の手数のきれいさ、よどみのない太夫の美声を聴いていただけたら」(燕三)、「人形は、わかりやすいように少し大きめの振りでやろうかなと」(玉男※出演は『曽根崎心中』のみ)。「きれいだし、『妹背山』は人形3体で踊るので華やかです」(一輔)、「“時代物”の三大道行のひとつ『妹背山』の「道行」と、“世話物”のザ・道行を1800円で2度おいしいです(笑)」(織太夫)。
2演目の間にはトークコーナーがあり、ゲストの作家・大島真寿美が技芸員と「道行」の魅力を語る。初日は話慣れている織太夫と燕三、2日目は「しゃべらなくていいから人形遣いになった」と言う一輔が「玉男兄さんも私も話すことが得意でないふたりでトークします(笑)」。当日ロビーには、開演の少し前までToday's Cast的に人形を展示、記念撮影できる。また、今回からSNSで広報を開始、技芸員のコメント動画を毎日発信中だ。ポップなしおりはSNSで問い合わせが多く、来場者全員にプレゼントされることになった。「この公演をきっかけに文楽に興味を持ってもらい、ひとりでも多くの人たちが国立文楽劇場に来ていただければうれしい」と全員が願い、「全力を尽くす」と声をそろえた。
公演は10月14日(金)・15日(土)、大阪市中央公会堂大集会室にて。チケット発売中。
取材・文:高橋晴代