撮影:五月女菜穂

フランス古典劇の代表作家であるジャン・ラシーヌ(1639-1699)の代表作で、浅利慶太が演出を手掛けた舞台『アンドロマック』が2022年10月22日(土)から自由劇場(東京都港区)で開幕する。

ラシーヌの代表作である『アンドロマック』は、トロイ戦争後のギリシアで繰り広げられる男女の恋愛劇で、初演は1667年にまで遡る。350年以上も前に書かれたフランス劇ではあるが、登場人物の生き生きとした描写、心理の駆け引き、ドラマチックな筋立てなどは、いつの世にも通じる“現代性”を持つ。

躍動的なダンスも、歌い上げるメロディもなく、舞台装置の転換もなく、ただひたすらに言葉を紡ぐ。言葉の一つ一つを正確に表現する、台詞の「朗誦術(ろうしょうじゅつ)」の極みともいえる作品。実際、本作の稽古の様子を見学させてもらっても、1行1行、いや、一言一言の発音に対するノート(※演出家サイドから俳優に対する指摘)の時間があり、俳優たちは正しく発音できるまでその場で何度も繰り返していた。言葉だけで魅せることの難しさと奥深さを感じた。

ピラド役の坂本岳大も「朗誦術を駆使して、いかに言葉を届けるか。その戦いの日々です」と稽古の感想を話す。劇団四季や浅利演出事務所の作品にも出演経験がある坂本だが「初めての人よりは先発している分、メソッドを知っているかもしれませんが、知っているのとできるのは別なので......」と謙虚。「みんなで一歩一歩稽古をしています」と話す。

ピリュス役の阪本篤は「初めてこの本を読んだときは、難しいと感じましたし、それなりに時間がかかりました。でも、これほどまで喋ってしまう熱量も感じて。自分の気持ちを純粋に相手に告げようとするエネルギーは見どころの一つだと思います」と本作の見どころを語る。

観客へのメッセージとして坂本は「コロナ禍で配信作品も増えましたが、生はやっぱり特別なので、ぜひ劇場に来ていただきたいです。そして、すごくエネルギーがある作品なので、その圧を感じていただけたら」と話し、阪本は「本作は1日で起きる話。悲劇ですが、僕はこういう芝居を見たら結構元気もらえるかもしれないです。肩肘張って見るような芝居でもないと思うので、楽しんでいただければと思います。頑張ります」。

公演は10月29日(土)まで。

取材・文:五月女菜穂