元受刑者たちが出所してから大変なこと

――実際に雇ってから、何かトラブルになったようなことはないですか?

「うちのお店の中で起きるトラブルは、基本的にはどこの飲食店でもあるようなトラブルです。これといって大きなトラブルはないですね」

――元犯罪者の方に刃物や火を扱う仕事を任せるのは心配じゃないですか。

「そういうことはあまり考えないです。仕事の評価も一般採用のアルバイトと同じですし、時給のスタートの金額も昇給のタイミングも一緒。

元受刑者だから、この仕事はやらせない、ということもないですね」

――逆に、そこを気にし過ぎるのはよくないわけですね。

「そうですね。その時点で、ちょっと差別が始まっているような気がします」

――心を閉ざしてしまっている人も多いような気がするのですが……。

「そういう方もいますね。刑務所の中ではあまり自由に話すこともできないので、時間がかかる方もいます。

やっぱり、自分のことを話したがらない。仕事で分からないことを聞けない方もけっこういますね」

――そのあたりは、どんな対処をされているんですか?

「従業員は全員3ヶ月に一度、ひとりずつ面談をします。それまでの3ヶ月間を自分では頑張れたのか? これからの3ヶ月をどう頑張っていくのか? どういったところを頑張っていくのか? といったことを聞きますね。

再チャレンジで来られた元受刑者やニート、ひきこもりの方は、『日本駆け込み寺』で仕事の悩みなどを話してもらって、そこから出た問題を僕の方で考慮していくようにもしています」

――そうやって、心のケアをされているんですね。

「そうです。元受刑者の方たちは出所してからいろいろ大変なんですよ。部屋を借りたくても不動産屋が貸してくれない。携帯も契約できない。口座をどうやって開いたらいいのかも分からない。

そのあたりの支援は『日本駆け込み寺』がしています。仕事面と生活面のケアを分担している形です」

――みなさん、最初の面談で話した3ヶ月先までのプラン通りにできますか?

「いや、なかなか難しいですね。貯金をして自立したいという目標を持っていたにも関わらず、いまの生活に満足してしまって、だらだらバイトを続けているという人も少なくないです。そこをどう修正していくのかが、僕のいまの課題です」

――元受刑者は若い方が多いんですか?

「様々ですね。いまはいちばん年長の方が43歳で、今度3月に来られる方は60歳。以前には18歳のひきこもりだった子もいました」

――60歳から人生をもう一度やり直すのは大変ですね。

「非常に大変だと思います。その方はちょっと大きな事件に関わったために、地元に帰ることができなくて。帰ろうとしたんだけど、やっぱり親戚や周りの目が厳しいし、東京の方がまだ職があるということで相談に来られて、採用が決まったんです。

すでに手元にあるお金で東京に住まいも手配されたんですけど、3ヶ月で仕事の実績をある程度作って、それを次の仕事にステップアップさせていきたいと考えているようです」

――元受刑者で印象に残っている方はいますか?

「そういう方がいまもお店にひとりいます。その方は、罪を犯したのが信じられないぐらい前向きで、すごくいいんですね。いちばんとは言わないけど、いまは主力です」

――そんな方がなぜ入っちゃったんでしょう?

「それが分からないんですよね。単独犯ではなかったけれど、罪を犯したのは事実なので……」

――巻き込まれたんですかね。

「そうかもしれないです。でも、しっかり罪を償って出てきているし、いまは自分で家賃を払い、携帯も買い、車の免許も取りに行って。

15年ぐらい入っていたから、出てきたときはそれこそ浦島太郎状態だったと思いますけど、いまはたぶん楽しくて仕方がないんじゃないですかね」

――そういう変化は嬉しいですね。

「そうですね。それに、そういう人がいると、後から入ってくる人のいいお手本というか目標になってすごくいいんです。

今度来る60歳の人にもその人の働きぶりを見てもらって、自分もこれぐらい頑張らなきゃいけないんだって少しでも思ってもらえたら嬉しいです」

『羊の木』上映中 © 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

話してみて分かった元受刑者たちの悩み

――みなさん、「新宿駆け込み餃子」でどれぐらいの期間働いて、自分の夢に向かって旅立っていくんですか?

「ちゃんと自立して出ていく方というのは、正直に言うと少ないです。再犯して脱落してしまう方もいますし、ある日突然来なくなってしまう人もいます。

あと、精神的に不安定な方もたまにいて、そういう方は通院が必要になるので、実際に自立できる方は10人中ひとりかふたりといったところです」

――そこは本人の問題なんですね。

「そうですね。最初の土台やきっかけは僕たちが一生懸命作るけれど、そこから自立していくのはやっぱり本人だと思うんです。

いまよりもっといい給料をもらうために、もっといい仕事をするために、自立していくために自分でしっかりと見つめて欲しい。

これだけ誘惑の多い歌舞伎町という街で生活できているだけでも、僕はすごい自立だと思うんですよ。

毎週決まった時間帯にこの店に出勤して、夜、ガヤガヤしている歓楽街を帰っていくわけですからね」

――すごい誘惑がありますよね(笑)。

「本当にそうなんですよ。路地をちょっと入れば、昔の仲間みたいな人がいっぱいいるわけですから(笑)、ここで働けているというだけで、かなりの自立だと思います」

――歌舞伎町で餃子のお店という発想がそもそも斬新だったわけですね。

「歌舞伎町だからよかったんだと思います。歌舞伎町で自立できたら、もう同じことはしないと思いますから」

――逆戻りしそうになった人を踏み止まらせたようなこともありますか?

「一度ありました。いまもいる30代の子なんですけど、その子が突然『このお店を辞めたい』と言ってきたときに、辞める理由を言わなかったんですよね。それでメシを食いながら話を聞いたところ、友だちが海外で始める仕事を手伝うって言うんですけど、誰が聞いても怪しい話だし、儲かる根拠も全然なくて。

それで『本気で言ってるの?』って何時間もかけて説得したら、最終的には彼が泣きながら『もう一度働かせてください』と言ってきて、いまも働いています」

――顔を見て、ちゃんと話し合ったのがよかったわけですね。

「そうです。彼が言うには、『辞めたい』と言えばすぐに辞められると思ったみたいで。

それに、僕たち雇う側が自分たちのことをそんなに親身に考えてくれているとも思っていなかったみたいなので、やっぱりきちんと話さないと理解してくれないんだということを痛感しました。

僕も辞めたい理由が納得できるものなら、構わないですよ。

でも、また同じようなことをしてしまう可能性がある選択はさせたくないというのが本音なので、『それはやめなさい』と言いますよね。

『海外で何を売るのかも、会社名も個人名も僕に言えないようなところで働くのはよくない。今度失敗したら、うちの店にも来れなくなるし、どうするの?』と言って説得しました」

――どうしても、簡単にお金が手に入りそうな話に流れがちなんですね。

「そっちの方にはやっぱり行っちゃうんですかね。だから、元受刑者の人たちには『昔の仲間と連絡を断て』と言っています。違法DVDの販売や薬物系のグループはネットワークやコミュニティが強いですからね」

――話してみて分かった元受刑者たちの悩みは、ほかにどんなものがありますか?

「うちに来る人は身内と疎遠になっている方がほとんどなので、頼るところがないんですよね。

だから、『仲間との連絡を断て』というのは実は少し可哀想なんですよ。良くない友人だとしても、唯一の仲間ですからね。

『この店を土台にして、新しい仲間を作っていけ!』とは言うんですけど、家族や兄弟とも連絡が取れず、子供がいても会えないという人が多いので、自分が置かれた状況がやっぱり辛いんだと思います」