3ヶ月の壁

――でも、『新宿駈け込み餃子』に来る方はとりあえず立ち直ろう、やり直そうとしている方たちですから、それだけでも期待が持てますよね。

「そうですね。スタートしてだいたい3ヶ月なんです。3ヶ月の壁を越えられれば続くんですよ。逆に、3ヶ月ぐらいのところでダメな人は脱落してしまうんです」

――仕事がハードだったり、規則正しい生活ができなくて脱落するんですか?

「それが分からないんです。その3ヶ月間、何かを我慢して生活しているんでしょうね。それが辛くなっちゃうのか、だいたい3ヶ月が肝なんです」

――なぜ3ヶ月が分かれ道になるのか? は長年やっていらしても分からないんですね。

「そうです。だから、なかなか難しいところがありますよね。昨日まですごく元気に働いて、元気に帰ったのに、『すみません。実は……』みたいなこともありますし、突然来なくなったので、どうしたんだろう? と思っていたら、警察から『いま、こちらで保護しています』という残念な電話がかかってきたこともありましたし。

一方で、自分から積極的に話してくれない方でも長く続くパターンもあるので、本当にそこは個人個人の問題です。ただ、その最初の3ヶ月をクリアした人は、みなさんすごくよくなるんです」

――旅立たれた方でいちばん成功されたのはどんな方ですか?

「うちの店では、再チャレンジを応援する取り組みに賛同してくださる企業から、店内に飾る木札の形で義援金をいただいているんですね。

うちで1年半ぐらい働いた34歳の子は、店で知り合ったその企業の方のひとりと事業を起こして、フードカーの仕事をしているようです」

――元受刑者の人たちを受け入れる体制というのはまだまだ整っていないような気がしますが、その点に関して何か思うところはありますか?

「彼らを受け入れる業種は、いまは土木建築関係や清掃関係がほとんどだと聞いています。うちと同様の取り組みをしている飲食店の数も少しずつ増えてはいますけど、まだまだ浸透していないですし、数も足りないので、これは地域と一緒に広げていかなければいけないことだと思います。

『新宿駈け込み餃子』を歌舞伎町で始めた当初はいろいろ大変でしたけれど、おかげさまでいまは認知度も上がって、店の主旨を理解してくださっている方も多いので、僕たちとしても、こういう運動を都心から地方に広げていきたいなと考えています」

社会の仕組みに関して思うところ

『羊の木』上映中 © 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

――社会の仕組みに関しては、何か思うところはありますか?

「刑務所の中で、出所後に役立つ資格や教育を身につけさせる取り組みをして欲しいですね。そうすれば、彼らはもっと楽に職に就けるような気がします。

それから、刑務所の中で出所後の住居の手配などをしてもらったり、生活に関わる最低限の知識と方法を指導してもらいたいです。

身内のない元受刑者の方たちは、そういうことさえ相談する相手がいないので、そこから再犯に走る可能性が必然的に上がってしまう。そういう仕組みをひとつずつ改善していかなければ、再犯はなかなか減らないのではないでしょうか」

――「新宿駆け込み餃子」さんの今後の展望も教えてください。

「歌舞伎町の店舗と同じように、『日本駆け込み寺』や『再チャレンジ支援機構』のようなところと組んで、今後は地方でも同様の取り組み方をしていけたらいいなと考えています。

例えば仙台とか大阪とか、地方の都市部から始めていけば、もっと多くの人を更生に近づけられるような気がします。

なかなか理想と現実が一致しないところも多いですし、賛否両論のある業態ですけれど、すごく誇りを持ってやっていますので、温かい目で見守っていただければ嬉しいですね」

菊地さんのお話から、私たちが毎日の生活を送っているすぐ隣で、人生をもう一度やり直そうとしている人たちや彼らをバックアップする取り組みを行っている人たちがいることが分かったはずです。

映画『羊の木』にもさまざまな事情で過ちを犯した6人が登場し、彼らが辿るそれぞれのその後の人生に心を揺さぶられます。

映画を観た後に、「新宿駆け込み餃子」で餃子を食べながら、そこにどんな問題が隠されているのか? をちょっと考えてみるのもいいかもしれません。

ちなみに「新宿駆け込み餃子」の餃子はニンニクとニラを使っていないのが特徴で、いちばん人気は小籠包のように中から肉汁があふれ出す焼き餃子(400円/5個)。

油淋餃子(300円/3個)、水餃子(580円/3個)なども人気があり、ほかにも熊本直送の馬刺しやおでんなどメニューも豊富です。この機会に足を運んでみてはいかがでしょう。

新宿駆け込み餃子

東京都新宿区歌舞伎町1-12-2 第58東京ビル1階・2階 TEL:03-6233-7099

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。