(C)飯野高拓

日本大学芸術学部のダンスサークルから生まれ、疾走感のあるダンスとJ-POPの名曲とで構成される“劇場型ダンスエンターテインメント”で人気の「梅棒」。アーティストのライブをはじめ映画や舞台での振付・演出でも活躍中の彼らの最新作、15th “RE”PLAY『シン・クロス ジンジャー ハリケーン』が、11月18日(金)から東京・サンシャイン劇場で上演中だ。本作は、2015年に上演された4th PLAY『クロス ジンジャー ハリケーン』をバージョンアップしたもの。メンバーのみで上演される「梅棒」の代表作のひとつが、7年の時を経てよみがえる。

舞台は「日本のどこかにプカッと浮かんだちっちゃな島」。野球青年や受験少年、おまわりさん、漁師、花火職人、神主らがにぎやかに暮らす島に、ひとりの女性が旅行で訪れたことから物語が始まる。彼女を巡って男たちが争うなか、昔から伝わる「島一周競争」の行方は意外な方向へ……。
幕開きは、舞台上になつかしい“ラジカセ”が置かれ、DJを演じる塩野拓矢の軽快なトークと音楽からスタート。続けて上記の役どころを演じる遠山晶司、鶴野輝一、櫻井竜彦、楢木和也、天野一輝が日常生活をユーモラスにダンスで表現すると、シーンが終わる頃には、“基本的にはセリフなし&感情はダンスで表す”梅棒の世界にいつのまにか引き込まれてゆく。先述のとおり、物語を彩るのはいずれも新旧のJ-POPの名曲だ。大ヒットした曲ばかりなので幅広い層の耳になじむのはもちろん、秀逸な歌詞はダンスを伴うことで重層的な意味合いを帯びる。いまTikTokでバズり中の曲もさりげなく登場し、客席の熱気が上昇していくのを感じた。

ストーリーは、遠山演じる野球青年と、野田裕貴が演じる島を訪れた女性を中心に進行。遠山の真面目で一生懸命な様子と、野田の純粋な可愛らしい佇まいが醸し出す淡いラブストーリーは、王道のそれ。だからこそ、客席で受け取る側は自分の思い出に引き寄せて観ることが可能だ。ダンスと音楽のみで物語を描くという「梅棒」の舞台は、セリフがないからこそ無限に広がっているのだ。
後半で登場する元カレ役の多和田任益、落ち武者役の梅澤裕介も、いわくありげな役どころを繊細に表現。クセのありすぎる池の主を演じる伊藤今人も、さすがの存在感。登場するたびに目で追ってしまう“視線泥棒”で物語にアクセントを加えていた。

冒頭には島の盆踊りの振付レクチャーがあり、舞台と客席が一緒に楽しめる仕掛けもしっかりと。ほのぼのとした前半から意外な展開を見せる後半まで、疾走感あるダンスで飽きさせない。なにより2時間の上演中、最初から最後まで全力で、かつエモーショナルな表現で魅せる彼らを観ていると、こちらまでエネルギーがチャージされる感覚になるのが不思議だ。社会に沈鬱な空気が蔓延している今だからこそ、甘酸っぱくて少し切ない、さらに面白くてかっこいい唯一無二の「梅棒」の世界を、ぜひ味わってほしい。

取材・文/藤野さくら