撮影:田中亜紀

注目の劇作家・横山拓也の新作「夜明けの寄り鯨」(演出:大澤 遊)が新国立劇場で12月1日より上演される。11月中旬、稽古場の模様を取材した。

25年前に友人たちとある港町を訪れた女性が結婚を前に町を再訪。かつて自分が傷つけてしまったかもしれない男性の面影を追う。

この日の稽古は、25年前の旅行の回想から。三桑(小島 聖)は旅行中、ヤマモト(小久保寿人)に告白するが断られてしまう。三桑はヤマモトが好きな相手を執拗に尋ね、さらに同性愛者なのか? と問い詰める。彼は否定するが、彼女はその疑念を周囲にも話してしまい、そこから事態は思わぬ方向へ…。

こうしたやりとりに【現代】から25年前をのぞく青年・相野(池岡亮介)から「アウトですよ!」と厳しいツッコミが飛ぶが、過去に意識せず発した言葉が「誰かを傷つけていたかも…」と思い当たる経験は誰しもあるだろう。25年前の“当たり前”の会話を傍から眺めつつ、発せられる悪意なき言葉の刃にドキリとさせられる瞬間が幾度となく訪れる。

誰かの当たり前が、別の誰かにとってはそうではない。だが、若さ、そして時代ゆえに、想像が及ばず、自身の「常識」や「正義」で他者を傷つけてしまう――。本作では性的指向に関するアウティング(=本人の了解を得ずにセクシャリティを第三者に明かすこと)、捕鯨によって生活してきた港町に対する非難などを通じ、指向や立場の違いを超えて、他者を「理解する」というのはどういうことなのか? を問いかける。

稽古で印象的だったのが、演出の大澤と俳優陣のやりとり。劇中で三桑たちは、浅瀬に漂着した鯨に遭遇するが、若者たちは、遠目にそれを見つつ、近づこうとはしない。永嗣(阿岐之将一)は、恋人の景子(森川由樹)から「近くで見てきたら?」と言われると「やだよ」と即答する。

大澤の「永嗣は鯨が怖いの?」という問いかけに、阿岐之は「わからないものへの恐れかな? 得体のしれないものについて、離れた外側からワーワー言ってたいのかも…」と答える。

大澤曰く、25年前のシーンは「みんな、うまくいかないまま終わる。解決しちゃいけない。みんな、抱えたままいなくなる」とのこと。鋭い言葉の刃と共に醸し出されるこの“モヤモヤ”がどこへ着地するのか? 完成を楽しみに待ちたい。

「夜明けの寄り鯨」は新国立劇場小劇場にて12月1日より開幕。

取材・文:黒豆直樹