すっかり冬の風物詩となったフィギュアスケート。注目が集まるのは、やはり日本人選手の活躍があってこそ。以前はロシアやヨーロッパやアメリカなどの選手が上位を占めていましたが、伊藤みどりさんくらいから日本人選手の活躍が増え、今ではオリンピックや世界選手権では必ずと言っても良いほどに日本人選手が上位入賞しています。そんなフィギュアスケートは単に見ていても楽しめるのは間違いないのですが、ルールや採点方法を知ることができれば、もっと楽しめるはずです。スポーツ漫画では、ルールや競技環境を詳しく説明してあることが少なくありません。これはフィギュアスケートの漫画も同様です。そこでお勧めのフィギュアスケート漫画を紹介しましょう。

   
まずは講談社の「KISS」で連載されていた『キス&ネバークライ』(小川彌生)です。この作品ではフィギュアスケートの中でも、ちょっと埋もれがちなアイスダンスを取り扱っています。シングルやペアに比べて、ジャンプなどの派手さがないためか、日本人選手の活躍が目立たないからなのか、『どんなだったかな』と思う人も多いはず。それでもこの漫画を読めば、違いがはっきり分かります。

主人公の黒城みちるは、ジュニア時代にはシングルの世界大会で優勝したこともあったのですが、両親がアイスダンスのペアだったこともあり、シニアになってアイスダンスに転向、世界を目指すようになります。そこにパートナーを組んだ四方田晶や幼馴染みの春名礼音も加わり、四方田晶の以前のパートナーの佐田真澄なども出てきて、ちょっとおかしな三角関係や四角関係になっています。じゃあ『スケートとラブストーリーなのか』と思うかもしれませんが、みちるが少女時代に児童誘拐に巻き込まれ、それに近親者が関わっていたことなどが、物語の進行と共に明らかになって行きます。また序盤で重要な人物が亡くなってしまうこともあって、スケート以上のスリリングな展開が繰り広げられていきます。もちろんアイスダンス特有の華やかな場面は満載なのですけれども、そうであればあるほどに付きまとう重苦しい陰が色濃く映って見えます。

2011年の1月号で連載が終了し、コミックスは全10巻で完結していますので、この年末年始に一気に読むにはちょうど良いはず。ちょっとマイナー感のあるアイスダンスに詳しくなってみてはいかがでしょうか。またエピローグ作品『キス&ネバークライPLUS』も「KISS+」の最新号で無事完結となりました。こちらも近々コミックスが発売されるでしょうから、まとめて11冊を読んでも良いかもしれませんね。

そして少し古い作品ですが、お勧めしたいのが『銀のロマンティック…わはは』(川原泉)です。白泉社コミックスとして発売されたのが1986年なので、古本屋を回ることになるでしょうが、ちょっと難しいかもしれません。ただ白泉社文庫の『甲子園の空に笑え!』に収録されていますので、そちらも探してみてください。

“あの”天才バレエダンサーを父に持つ女子高生の由良更紗と、元スピードスケート選手の“あの”影浦忍が、町のスケートリンクで偶然出会っていきなり互いにトリプルアクセルをやらかします。そこでフィギュアスケートペアとしてスカウトされ活躍するストーリーです。

そうした強引な展開が示すように、2人の活躍はわずか1年余り、大会も実質3試合しか出場していません。でもそれだけに笑いに涙にと思いっきり振り回されます。ページ数も多くなく、余韻を残した終わり方なので、『その後も知りたい』と思うんですが、無理に追わない方が良いのでしょう。『更紗はシングルに転向しても絶対に活躍できるはず』なんて思いたくなるのですが。連載時期が古いこともあって、採点方法やルールが今とは大きく異なるのですけれども、それだけに『ああ、こんなだったな』と思う人も多いのではないかと思います。ラストシーンの“6.0”の連続コールに至っては、もう何も言えなくなってしまいます。

   
この2作に限らずフィギュアスケート漫画は少女誌や女性誌に多いのですが、『ブリザードアクセル』(鈴木央)は小学館の「週刊少年サンデー」に連載されていた作品です。喧嘩の得意な中学生、北里吹雪が目立ちたいがためにフィギュアスケートの道に進み、生来の運動神経に加えて努力のかいもあって、世界的な選手へと成長していくストーリーです。花びら舞い散る華麗なフィギュアスケートの世界も、少年誌になるとスポ根漫画になってしまうんですが、それでも独特の華やかな雰囲気はあちこちに満ちています。演技を邪魔するために投げつけられた花束を吹雪が投げ返すところは「うそっ!」と叫んでしまいたくなるのですが、ああした演出も漫画ならではですね。

この漫画で特筆すべきは、主人公の吹雪が世界大会で5回転半のジャンプを成功させてしまうところです。現実の世界では4回転がようやくと言うところですので、もう何年も先を見据えていたのか分からないくらいです。そんなところは少年漫画にありがちなインフレ展開とも言えるのですが、演技のシーンにおける迫力は目を見張るものがあります。ラスト近くで題名にもなっている『ブリザードアクセル』を連呼するところでは、これでもかこれでもかの迫力です。ただし日本国内での展開に比べて、世界に出た後では内容が駆け足気味になっています。最後も一通りまとめてはいるものの、まだまだ先が描ける展開だったはずで尻すぼみの感が拭えないところが残念かなと思います。

『エースをねらえ!』でテニスを志し、『キャプテン翼』でサッカーW杯に憧れ、『スラムダンク』でバスケットボールの選手を目指した少年少女がいるように、フィギュアスケートの世界にも漫画を呼んで、その道に進んだ人がいる……かもしれません。これからのフィギュアスケート界で日本人選手が活躍するためにも、フィギュアスケートの漫画がどんどん増えて欲しいものです。 

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。