2014年6月にSIMフリースマートフォン(スマホ)の国内市場に参入したファーウェイは、わずか2年半で全国の主要家電量販店・ネットショップの実売データを集計した「BCNランキング」の年間販売台数シェアNo.1を獲得した。撤退するスマホメーカーがある一方で、なぜファーウェイはトップに上り詰めることができたのか。デバイス事業のトップを務める呉波プレジデントに聞いた。
取材・文/細田 立圭志、写真/瀬之口 寿一
顧客が再度ファーウェイの製品を使いたくなるかが重要
――「BCNランキング」(17年1月-12月)のSIMフリースマートフォン部門で年間販売台数シェア37.3%のトップを獲得しました。
呉 コンシューマ市場で厳しい目をもつ日本の消費者の方々に認められたことは、ここ数年の努力が認められたのだと、素直にうれしい気持ちでいっぱいです。販売台数で1位を獲りたかったのではなく、日本の消費者に質の高い製品やサービスを提供したいと考えてきました。だからこそ、安い価格帯の製品は出してきませんでした。これは台数という観点でみれば、決して有利な条件ではありませんでした。
――販売台数シェアトップに向けて、どの点に力を入れてきたのですか。
呉 2014年から17年まで、一貫して(顧客ロイヤルティを数値化する指標の)NPS(ネット・プロモーター・スコア)を重視してきました。ファーウェイの製品を使った消費者が、また使いたいと思うか、あるいは知り合いにすすめたくなるかを数値化した指標です。マーケティング活動に多額な費用を投じるのではなく、NPSの数値を着実に上げることに注力してきました。目標に向かって地道に取り組んできた成果だと思っています。
スマホは消費財なので、ブランドの人気度を重視しがちになりますが、こうしたことは大がかりなマーケティング活動を通じて比較的短期間で上げることができます。しかし、消費者が実際に製品を使ったときに使い勝手が悪ければすべてが無駄になります。
NPSの評価基準は製品だけではなく、販売店やコールセンター、アフターサービスまですべてを含みます。消費者が販売店に足を踏み入れた時点で、われわれのサービスを受けていて、製品はその延長線上にあるからです。
また、価格戦略では1万円台の低価格な製品を自らすすんで投入することはしませんでした。2万円、3万円、4万円台、昨年は9万円台、10万円台の高品質な製品を出すことで、消費者に認めてもらえるようにしてきました。
――付加価値の高い製品のほかに、ブランド力を高めるために必要なことは何ですか。
呉 「ワンボイス、ワンイメージ」というポリシーに基づいたブランディング活動を行うように心がけています。インターネットのオンラインと、リテールのオフラインでのマーケティング活動の歩調を合わせて、一貫してひとつのイメージをつくり上げることが大切なのです。
言葉にすると、シンプルで簡単そうに思うかもしれませんが、徹底して実行することは実はとても難しいのです。われわれも、過去にはテレビCMと店舗訴求がまったくリンクしてなかったという苦い経験があります。しかし、「失敗は成功の母」という格言を信じて、失敗から多くを学びました。
また、日本の消費者はすばらしい裁判員だと思っているので、社内にVOC(Voice of Customer)というコメントをまとめたものがあり、毎日読むようにしています。
同じ手法は通用しない
――過去のインタビューでは、日本市場での生き残りを最大のテーマにしていましたが、販売台数シェアNo.1になったことで、18年はベンチマークされる存在になりました。
呉 私が日本にいる限り、日本市場での生き残りというファーウェイジャパンの使命は変わりません。1月1日の社員向けメッセージでも、過去のことはすべてリセットして、ゼロからスタートしよう、と伝えました。社員の一部でも、17年の高い実績に満足し、努力しなくても同じ成績が残せると考えていたら大間違いです。17年の手法をそのまま18年も行えば成功するなどと考えるのも間違いです。
また、年を追うごとに市場環境は大きく変化しているので、先行者をベンチマークするだけでは、フォロワーの領域から抜け出すことはできません。成功者が歩んできた道を、同じ手法で真似することで高い実績が再現できるかといえば、これは前例がないほど難しいのです。
18年は引き続き市場の変化に注目して、さらに多くのメーカーがSIMフリー市場に参入してくるでしょうから、パートナー企業との関係も都度、調整していかなくてはいけません。今年は、これまで以上にアグレッシブに事業を進めていきたいです。