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2005年から毎年、中村勘九郎・中村七之助ら中村屋一門が全国を巡業、初めて歌舞伎を観る人も楽しめる演目で人気の『春暁特別公演』。元々は若いファンから“地方にいると交通費や宿泊費がかかって、なかなか歌舞伎を観に行くことが出来ない”という手紙をもらったことから、「自分たちから全国各地に足を運ぼう」とスタートした公演。今回も勘九郎がドラマで演じて話題となった「中村仲蔵」ゆかりの舞踊や美しい姫君の毛振り、素顔が垣間見えるトークコーナーなど見逃せない舞台となりそうだ。それぞれの見どころを勘九郎と七之助に聞いた。

幕開けは、勘九郎と七之助、そして中村鶴松によるトークコーナーから。
「客席の地元の方たちと、その土地ならではのお話ができるのが楽しみ。飾らない素の僕たちを見ていただけたら」と顔をほころばせる勘九郎。七之助もうなずきながら「何度も行っている土地ですと、必ず行く神社やなじみのお店もできるので、そこにまたうかがえるのも楽しみなんですよ」と話す。
続いては、澤村國久や中村いてうをはじめとする中村屋一門が華やかにそろう『元禄花見踊(げんろくはなみおどり)』。桜が満開の上野の山に、武士や町人、若衆、遊女などが花見に集う様子を描く。勘九郎が「まずは華やかな衣裳を見て楽しんでいただいて」と言うと、七之助も「一緒にお花見をする気分でね」と微笑む。

3つめの演目は、『仲蔵狂乱』。ドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』で勘九郎が仲蔵役を圧巻の迫力で演じきり、大きな注目を浴びたことは記憶に新しい。本作はその仲蔵ゆかりの演目だが、今では上演されることが少なくなっているのだという。
「手前味噌なんですが、ドラマは歌舞伎関係者にも良かったと言っていただくことが多くて、すごく力になっています」と勘九郎。「ただ、この演目は仲蔵さんが出てくる作品ではなくて(笑)、人気の彼が踊ったからその名前が付いてしまったというもの。僕は、娘の小野小町を悪人から逃すため狂人の振りをする小野良実を演じます。当時の仲蔵さんが踊っていた振りというのが、今の舞踊とは少し違っていてなかなか難しいのですが、今回は貴重な機会と思って挑戦します」と表情を引き締める。

最後は、七之助と鶴松の『相生獅子』。姫君が花や蝶に戯れる獅子の姿を踊るうちに獅子の精に取りつかれ、勇壮な毛振りでクライマックスを迎える。
「お姫様の扮装で毛振りをするのは、バランスが取りにくくて大変ですね。姫君ですので脚を踏ん張るわけにはいかないですし(笑)。それでも鶴松と共に美しくお見せできれば」と七之助。その鶴松には「自主公演も見事にやり切って、今とてもいい時期。1つひとつの役に丁寧に挑んで、これからますます活躍していってほしい」と期待を寄せる。
2023年も波に乗る勘九郎、七之助ら中村屋一門の華やかな『春暁特別公演』。ぜひ春の訪れを舞台と共に客席で味わってほしい。

取材・文:藤野さくら