
佐々木蔵之介がほれ込んだ演出家、ルーマニアの巨匠シルヴィウ・プルカレーテと舞台で2度目のタッグを組む。2017年の『リチャード三世』に続き、今回は生誕400年を迎えたフランスを代表する劇作家モリエールの傑作喜劇『守銭奴』だ。蔵之介が演じる主人公のアルパゴンはハゲ頭の60歳、何よりも金が命の超ドケチ親父。身内や召使に過酷な節約を強要し、娘の結婚にも反対する中、突然アルパゴンが結婚を宣言する。その相手はなんと息子の恋人で…。この作品をプルカレーテがどう演出し、蔵之介がどう挑むのか。大阪公演の開幕直前、蔵之介に見どころを聞いた。
東京公演を経て「まず、この舞台美術だけでも見てほしい。汚いものが圧倒的に美しく見える、美術も照明も素晴らしい」。部屋を仕切る壁は可動式で半透明のビニール。「見えないけど、なんとなく見える。同時進行で何かが行われているぞ、というような」。パリ在住のプルカレーテがモリエール作品を提案し、そこから蔵之介が『守銭奴』を選んだ。「1日だけの話だし、こんなハゲ頭のジジイ役もやったことがなかったから。映画でもドラマでも無理、ここまでやれるのは演劇の成せる技。想像力を媒介としてお客様が楽しめるのでは、と。ただ、かっこいいセリフがひとつもなくて、それは後悔しました(苦笑)」。
アルパゴンの役作りは「猜疑心を大事にしました。ドケチで強欲で、人を疑い続けている男。そのドケチを1周回って、ちょっとチャーミングにできたらいいなと」。物語は前半から不穏な空気が流れる。「喜劇を観に来たのに、何これ? という。これはプルさん(プルカレーテ)の真骨頂なんです。日本人の笑いの感覚とは違うテイストの笑いや、乾いた笑いのようなものがある。お客様も最初とまどいながら、だんだん笑い出して」。そして最後は戯曲通り、いきなりのハッピーエンド。舞台は突然カーニバルに!?「何が出てくんねん、こいつらなんやねん! なんだかんだ言って一番大事なのは豚の丸焼きかい! みたいな(笑)。プルさんが『もう、ここまでやっちゃう』って演出したんです(笑)」。
その鬼才ぶりをいかんなく発揮する、プルカレーテ演出の独創的世界。「こんな種類の演劇はなかなか日本で観られないので観てほしい。何よりも関西のお客様に観てほしいという思いがありました。翻訳劇の笑いって悲劇より明らかにハードルが高い。大阪のお客様は、絶対こういうものを受け入れる度量があると思うし、楽しんでいただけると思っています」。
大阪公演は1月6日(金)から9日(月・祝)まで、森ノ宮ピロティホールにて。チケット発売中。
取材・文:高橋晴代