吉田美月喜 (C)エンタメOVO

 関西の小さな港町を舞台に、若年性乳がんの発覚と、幼なじみへの恋心に揺れる思春期の少女の思いを、ユーモアを交えた繊細なタッチでつづった『あつい胸さわぎ』が1月27日から公開される。主人公・武藤千夏を演じるのは、「今際の国のアリス」(20)、「ドラゴン桜」(21)などの話題作に出演し、今年は本作を皮切りに、さらなる活躍が期待される若手俳優の吉田美月喜。常盤貴子、前田敦子、奥平大兼ら、人気俳優との共演で難役に挑んだ主演映画の舞台裏について聞いた。

-若年性乳がんと恋に揺れ動く、千夏の感情が繊細に表現されていて、とてもすてきな青春映画でした。とはいえ、乳がんを患った思春期の少女の役は難しかったと思いますが、出演が決まったときの気持ちは?

 実はこの映画が、私のはじめて撮影した主演作になるんですけど、決まったのはオーディション当日だったんです。オーディションが終わって、まつむら(しんご)監督とマネジャーさんだけでお話をした後、帰り際に監督から「千夏よろしくお願いします」と言われて。何が起きたのか分からず、頭が真っ白な状態で、家に帰ってからも、お母さんに「何か、決まったらしい…」みたいな感じで(笑)。ただ、オーディション前に台本の初稿を読ませていただいたんですけど、“乳がん”というとちょっと重くて暗いイメージがある中で、すごく温かいものを感じて、それがすごく印象深かったです。

-不安などはありませんでしたか。

 オーディションの時、監督が「乳がんという要素もあるけど、それだけでなく、親子関係とか、甘酸っぱい初恋の部分とか、そういう1人の女の子の人生を描きたい。重苦しい話にしたいわけではない」とおっしゃっていたんです。それが自分の中で、台本から受け取った印象と重なって、「なるほど」と理解できました。

-乳がんという点に関してはいかがでしょうか。

 「乳がんになる」ということに関しては、なった人にしか絶対に分からない気持ちがあると思うんです。でも、できるだけそこに近づけるように、自分でも調べてみました。そうしたら、いろんな情報があり過ぎて、何が本当で何がうそなのか分からなくて…。ただ、千夏も、急に「乳がんです」と言われたら、こんなふうに、何が何だか分からなかっただろうなと思い、その気持ちを大切に演じました。

-吉田さん自身が、千夏に共感した部分は?

 撮影時、私も千夏と同じ18歳だったので、高校を卒業して「大人になった」と思っていても、実はまだ親に頼らなければ何もできないという、子どもっぽい浮ついた気持ちはすごく共感できました。そこは千夏を演じる上で、ずっと大切に持っていた部分でもあります。

-撮影で印象に残ったシーンは?

 常盤貴子さんが演じるお母さん(役名:武藤昭子)と、前田敦子さんが演じるトコちゃん(役名:花内透子)、それぞれと一対一でぶつかるシーンは、すごく印象に残っています。母とのぶつかり合いと、トコちゃんと女同士としてぶつかり合う場面は、同じではいけないと思っていたんです。でも、2人とも私から見ると大人なので、どう違いを出したらいいのか分からず、悩みながら現場に入って…。そうしたら、母とぶつかるシーンを先に撮った時、甘える気持ちが出てきて、私自身ちょっとびっくりしたんです。やっぱり家族だから、いくら怒っていても、甘える部分が出てくるんだなと。そう感じたとき、「母と女との違いは、これだ!」と思って、そこを大切にしながら、母親にはぶつかっていきました。

-トコちゃんとぶつかる場面はいかがでしたか。

 前田さんも、現場ですごくフレンドリーに、本当のお姉さんのようにいろんなことを話してくださったので、千夏がトコちゃんに憧れる気持ちがよく理解できました。トコちゃんとのぶつかりあいは、尊敬しているし、大好きな憧れのお姉さんだからこそ…という気持ちを持ったまま演じなければいけなかったので、難しかったです。でも、すごく楽しくて、新しい発見がいっぱいありました。

-母親とのやり取りは、互いに正面から向き合わないお芝居も多く、母親と思春期の娘の微妙な距離感がリアルでしたね。

 おっしゃる通り、向き合って話さない場面が多いんですけど、それは親子の絆があるから、ということもあるし、千夏のちょっとした反抗心というか、「私はもう大人なんだ」という、「自立していないのに、自立していると思っている」部分の表れなのかなと思っていました。でも、正面を見ていないことが気にならないぐらい、常盤さんが、言葉や行動でいろんなものを伝えてくれたので、全く違和感なく演じられました。

-母娘としての信頼関係ができていないと難しいお芝居だと思いますが、常盤さんとはそういう関係をどう作り上げていったのでしょうか。

 常盤さんとは、衣装合わせなどでお会いしていたんですけど、きちんとお話しできたのは現場に入ってからだったんです。ただ、現場に来てくださったときから、「関西のおかん」という雰囲気をすごく感じて。現場中もたくさん面倒を見ていただきましたし、娘として入りやすい雰囲気を作ってくださったのが大きかったです。

-本作では、幼なじみの川柳光輝に対する千夏のほのかな恋心も描かれています。光輝役の奥平大兼さんとの共演はいかがでしたか。

 撮影に入る前に、監督を含めた3人でワークショップをするなど、事前にコミュニケーションを取る時間はあったので、「初めまして」で緊張することもなく、いい距離感でお芝居できたと思います。奥平さんは私より一つ年下なんですけど、堂々としていて、自分の芯がきちんとある方で、人間として憧れる部分もあったので、休憩中には奥平さんの持っている演技の価値観など、いろんなお話を聞くことができました。勉強になることが多く、改めてすごい俳優だなと。

-お二人のお芝居もとてもすてきでした。ところで、乳がんは「女性の病気」というイメージが強いこともあり、最初にこの映画の話を聞いた時、男性がそこに立ち入っていいのか、少しちゅうちょしました。そういう男性は少なくない気がしますが、男性の観客を意識する部分はありましたか。

 私自身はあまり気にしていませんでした。ただ、ワールドプレミアなどでご覧いただいた男性の方から、「良かった」という感想をたくさん頂けたのはうれしかったです。

-この映画の監督も脚本家も男性ですし、決して乳がんを題材にした「難病もの」の映画ではないので、多くの男性にも見てもらえるといいですね。なお、この作品をはじめ、23年は吉田さんの活躍の場がさらに広がりそうですが、今後への意気込みを聞かせてください。

 この映画で昨年の東京国際映画祭に参加させていただきましたが、人生に一度しかない初主演映画で、そういう経験をさせていただき、私自身、スタッフやキャストの皆さんにすごく恵まれたと思っています。この映画のほかにも、今年は主演映画が公開予定なので、このチャンスを無駄にしないように、今年もいろんな役を経験して、いろんなことを吸収していける年にしたいと思っています。

(取材・文・写真/井上健一)