写真:阿部章仁

江戸川乱歩 名作朗読劇『孤島の鬼』が、1月24日(火)に東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて開幕した。

同タイトルの長編小説をベースに、原作では登場しない乱歩作品の探偵・明智小五郎や小林(芳雄)少年が“狂言回し”として劇世界を支える。恋人と友人を立て続けに殺された主人公・箕浦金之助の回想シーンが多くを占める本作の中で異彩を放つのは、金之助に想いを寄せる先輩・諸戸道雄の存在感だ。構成・演出は、声優による朗読劇シリーズを数多く手がけてきた深作健太が続投している。

取材日だった初日のキャスティングは、山口智広・神尾晋一郎・井上和彦・青山なぎさの組み合わせ。山口・神尾・青山は白を、井上は黒を基調とする衣装に身を包み、マイクの前に立つ。その背後にはドライフラワーを思わせる植物を束ねた異形の美術が控え、おどろおどろしく得体の知れない乱歩独特の世界観を立ち上げていた。客入れ時から時計の秒針が鳴り響くなど物語の始まりを予感させる演出のもと、4人はゆっくり台本を開く──。

殺人事件の真相に迫り死者に報いようとする<箕浦>を演じたのは、山口。たどり着いた孤島で出会った“片輪”の少女<秀代>との邂逅や、タイトルロールである<孤島の鬼>や<諸戸>に翻弄される様子を瑞々しく体現する。神尾は、事件のキーパーソンとも言える<諸戸>のあらゆる葛藤を知的に造形。苦悶の中における妖しい囁きやうめき声にうっとりした観客も多かったのではなかろうか。

紅一点の青山は、箕浦の恋人<初代>と<秀代>、そして<小林少年>役など演じた。声色や口調を自在に使い分け、あらゆる役回りを器用にこなして劇世界に貢献する。<明智>と箕浦の友人で殺人鬼の餌食になってしまう<深山木>に扮した井上は、本作の屋台骨ともいえる安定した朗読で作品を支えていた。声のみ出演だった銀河万丈による<諸戸丈五郎>の雄弁さも特筆しておきたい。

上演時間は100分強(休憩なし)。公演は1月29日(日)まで。回替わりキャストスケジュールは以下の通り。

1月26日(木)19:00=夏川椎菜、松田岳、笠間淳、牧野由依
1月27日(金)19:00=重松千晴、汐谷文康、宮地大介、逢田梨香子
1月28日(土)13:00=岡本信彦、堀江瞬、鳥海浩輔、久保田未夢
1月28日(土)19:00=岡本信彦、佐藤拓也、畠中祐、久保田未夢
1月29日(日)12:30=土田玲央、中澤まさとも、高橋広樹、青山吉能
1月29日(日)18:00=市川蒼、葉山翔太、山中真尋、逢田梨香子

取材・文:岡山朋代