LINE Payの長福久弘取締役COO

レジでスマートフォンの画面を見せるだけで買い物ができる「モバイル決済」。中国や北欧で普及が先行しているが、日本でも複数のサービスが立ち上がっており、今年が“元年”になるという見方もある。国内で最右翼とみられる「LINE Pay」は、昨年末に店舗向けLINEアカウントの「LINE@」と運営会社を統合し、今年は加盟店拡大の取り組みを強化する。リアル店舗でLINE Payをどのように普及させていくのか、長福久弘取締役COOに聞いた。


取材・文/日高 彰、写真/大星 直樹「決済」と「販促」をコミュニケーションでつなぐ

売上向上を実現できるソーシャルメディア

―― 今日は主にモバイル決済についてお聞きしたいのですが、その前に、御社でもうひとつの柱となる事業の、LINE@について質問させてください。Twitterなどを活用した宣伝・マーケティング活動は今やあたりまえとなりましたが、他のソーシャルメディアにないLINE@の強みは何でしょうか。

長福 一番簡単にいうと、「売り上げをアップできるツールがLINE@」です。他のSNSは「いいね」やシェアによって認知を上げたりファンを増やしたりする、いわゆるエンゲージメントの強化に適していると思います。それに対してLINE@は、従来のくくりでいえばチラシやDM、メールマガジンなどと同じカテゴリに入る販促ツールです。

例えば、天気が悪くて売り上げが伸びないとき、「今日使える『雨の日クーポン』です」といったメッセージをお客様へダイレクトに送ることができる。Instagramをやっていると、ちょっとかっこいいイメージがありますが、LINEはそんなに、かっこいいものじゃないんです(笑)。手紙や電話と同じようなコミュニケーションの手段で、多くの方がインフラとしてあたりまえのように使っているものですから。

―― そのLINE@事業を手がけていたLINE Business Partnersと、送金・決済サービスのLINE Payが、企業体としては昨年末に合併しました。この目的は。

長福 LINE@は、サービス開始から約5年で30万店舗にお使いいただくところまで成長できました。一方のLINE Payは、ユーザー数を3000万まで伸ばすことができましたが、アクティブユーザーの比率はまだあまり高くありません。使えるお店が少なかったことが一番大きな理由だと考えています。

オフラインの世界でもLINE Pay加盟店を拡大していこうと考えたとき、LINE全体の事業を見回すと、親和性が高いのはLINE@ユーザーの店舗様です。そこで、二つの会社が一緒になることによって、さらにスピード感をもってサービスを拡大していけるだろうという考えで、新生LINE Payが誕生しました。

手数料競争でなくモバイル決済ならではの価値を

―― 楽天やNTTドコモなどの大手からベンチャーまで、国内でも多くの事業者がモバイル決済に進出していますが、LINE Payの優位性はどこにあるのでしょうか。

長福 決済サービスは、それだけだと店舗にとってはコストでしかありません。お客様が払う金額は同じなのに、手数料が取られて、お店はなんだか損をしたような気分になってしまう。しかし、LINE Payでお支払いいただくお客様は当然LINEユーザーですので、例えばLINE Payでの決済と、LINE@の「友だち追加」を連動させるといった仕掛けも、技術的には実現可能です。詳細はまだ準備中ですが、今までは単にコストだった決済サービスが、友だち登録という資産に変わるような仕組みをご提供したいと考えています。

―― これまでなら会計のときに「お得なメンバーズカードを作りませんか」と勧誘していたような会員施策を、LINE Payで決済してもらうだけで実施できるわけですね。

長福 そして、登録いただいたお客様にメッセージを送ることで、またお店に来てもらえる。LINEはコミュニケーションツールであることが最大の強みですので、コミュニケーションという価値をしっかり生かすことで、決済が販促につながり、販促が次の決済=売り上げを生む、という好循環をつくっていきます。

―― 決済手数料の安さを売りにしているモバイル決済サービスもありますが、そこでの勝負はしないということですか。

長福 LINE Payの決済手数料は、物販の場合が3.45%です。加盟店様にとっては安いほうがいいのは当然ですが、他社と手数料競争をするのではなく、LINE Payというサービスならではの価値をご提供していくべきと考えています。加盟店の方々に「クレジットカードだと手数料を取られて終わりだけど、LINE Payなら販促ができる。だったらLINE Payを積極的に使ってもらおう」、と思っていただけるようにサービスを設計・強化していきます。

―― 昨年秋以降、大手チェーンストアなどからも相次いでLINE Payの導入が発表されていますね。

長福 大手の店舗様だとPOSの改修などが必要ですので、数か月前からご準備いただいていた案件がまさに今、花が咲きつつあり、今後も続々と事例をご紹介できる見込みです。また同時に、今後は小規模の店舗、地域の“個店”向けのご提案にも力を入れていきます。店舗のオーナーや店長の方々は、すでに国内7300万人のLINEユーザーの一人である可能性が高い。お店に「よい」と感じていただけるサービスをきちんと出していけば、モバイル決済の世界は必ず広がっていくと考えています。

◇取材を終えて

若きエグゼクティブらしい気迫にあふれる長福COOだが、自社のサービスを「インスタと違ってかっこよくない」と評してしまうなど、語り口は謙虚そのもの。しかしそれも、LINEが電話やメールのような、誰にとってもあたりまえの連絡手段として社会に根付いたからこそいえる“王者の余裕”なのかもしれない。

流行り廃りの激しいウェブサービス業界だが、長福COOは「人と人とのコミュニケーションがなくならない限り、LINEはなくならない」と断言する。LINEが情報に加えて、お金という価値をやりとりするための社会インフラに成長できるか、勝負の年になりそうだ。

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年3月号から転載