まさかこんなバンドになるとは思わなかった。12月4日、東京・新木場STUDIO COAST。この日のPOLYSICSのライブを見て、つくづくそう思った。もちろん最大級にいい意味で、である。
POLYSICSはこの1年半、おそらく過去最高に険しい道を辿ってきた。彼らは昨年3月に、カヨの卒業という大きな転換期を迎えている。『ピーチパイ・オン・ザ・ビーチ』や『I My Me Mine』といった楽曲を例に出すまでもなく、POLYSICSにとってカヨの存在は、無機質ながらキュートなボーカルやロボットアクションなどの振り付けによりバンドの魅力をポップに伝えるアイコンとして、またキーボードを中心にトリッキーかつキャッチーなフレーズを生み出す音の要として、非常に重要な役割を担っていた。‘10年3月14日の日本武道館公演にてカヨはバンドを卒業。彼女の不在がバンドに与えた影響もまた、計り知れないものだったはずだ。
しかし驚くべきは、そこからわずか5ヵ月後の夏フェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2011』で、サポートメンバーも入れずに3人だけで、しかも初披露となる新曲を4曲も引っ提げて、新生POLYSICSとしてのライブをやってのけたことだ。
そこからは怒涛の如く(とは言え、いつものポリらしいといえばそうなのだが)ノンストップの活動が続いた。まずフェスで披露された4つの新曲をミニ・アルバム『eee-P!!!』としてリリースし、3人体制での初ツアーを敢行。その後さらなる新曲『Let’sダバダバ』を発表、そして今年3月には3人体制で初のフル・アルバム『Oh! No! It’s Heavy Polysick!!!』を作り上げ、リリース記念の全国ツアーを開催。その後は全国の夏フェスに出演し、北海道ツアーなどを経て、ようやく先日のライブに辿り着くのである。
今回はアルバムツアーに続き『We are All Heavy Polysick!!! Round2 ~まだまだダバダバ!!!~』と題して、純粋に彼らがいまやりたい曲をやる、という趣旨のツアーだったのだが、まずこのようなライブ、つまりリリースタイミングではなく、バンド自身の最新モードをダイレクトに伝える自由度の高いライブができるようになったことが、彼らの成長を物語っている。カヨの卒業後、新たなPOLYSICSサウンドを作り上げるべくバンドを鍛え上げ続けた武者修行期間を経て、その中で培った新たな武器や必殺技をいかんなく発揮できる、そんな時期に突入したのだ。
ではPOLYSICSが手にした新たな武器とはなにか。ひと言で言うと表現力の飛躍的な向上だと思う。この日のライブでは、これまで3人体制になって(もっと言えば4人時代も含め、ここ数年内で)ほとんど演奏されていなかった、もしくは演奏されてこなかった楽曲が多く披露された。ここ最近のライブでお馴染みの『Heavy POLYSICK』~『Bleeping Hedgehog』の流れから、近年ライブ終盤の起爆剤として人気だった『シーラカンス イズ アンドロイド』をいきなり投下、さらにメジャー1stアルバム『NEU』収録のハードチューン『MS-17』へと雪崩れ込んだのだ。この日のポリは、いま現在のポリが作り上げたライブの必勝パターンをカスタマイズし、そこにこれまで眠っていた旧曲をドッキングさせることで、さらに未知なる興奮を生み出そうとしていた。そしてその試みは、4曲目にしてフロアを爆発させるという最高の結果をたたき出したのだった。
中でも個人的に最も衝撃だったのは、『WICKED LAUGH』を演奏したことだ。この曲はメジャー3thアルバム『FOR YOUNG ELECTRIC POP』に収録されているのだが、ひと言で言うと非常に変態的なナンバーである。そもそも『FOR YOUNG…』というアルバム自体が奇妙にねじれたポップネスを持つ作品なのだが、『WICKED LAUGH』はその中でも、メロディもリズムもギターソロもぶっ壊れてるのになぜかファニーで踊れるという、特別にヘンテコな楽曲なのである。おそらく3人でリスタートしたばかりのタイミングでは、この複雑な表情を持つ曲を演奏することはできなかったのではないだろうか。『Oh! No! It’s Heavy Polysick!!!』という自信作を作り上げたこと、そしてその後も3人体勢でのバンド・アンサンブルを強化し、旧曲のリアレンジ・スキルを上げ、バンドの表現力を高め続けたからこそ、このような新たな挑戦ができるようになったのだと思う。
挙げれば本当にキリがないが、初期の名曲『MAKING SENSE』から『Don't Cry』への流れや、『Shout Aloud!』『Smile to Me』で盛り上げまくった後、久々の『Code 4』で締めたりと、過去の名曲と最新モードの楽曲のコンボが生み出すグルーヴが、この日は本当にすばらしかった。「ヤバい、このバンド、まだ進化し続けるのか!」という、ファンからするといちばん嬉しい実感を、この日のライブからビシビシ感じることができたのだ。
冒頭の“まさかPOLYSICSがこんなバンドになるとは思わなかった”というのは、カヨの卒業後、まさかこの短時間でここまでの進化と可能性を感じさせるバンドになっているとは思わなかった、という意味である。でも振り返ってみると、自分はPOLYSICSというバンドに対して、いつもそんな思いを抱いていた。インディーズで気を吐いていたころは、まさかその後メジャーで活躍するなんて思いもしなかった。全編英語詞のメジャー1stアルバム『NEU』を発表したときは、まさかその次の2nd『ENO』で日本語詞を歌いまくるとは思わなかった。4th『National P』で音楽シーンに鋭い牙を向いていたときは、まさか次の5th『Now is the time!』でサビでリコーダーを使っちゃうような、開かれたポップさを発揮するとは思わなかった。
なんというか、活動の仕方が超律儀というか、超マジメで超人間臭いのだ。いちいち自分たちがいまやるべきこと、いま鳴らすべき音はなにかという問いに真剣に向き合い、それを実現させるために最大限の努力と工夫を重ね、その結果生まれるのが、あのブッ飛んだ音とパフォーマンスなのだ。どんなにイカれた音を作っていても、音楽に対してもファンに対しても、極めて誠実にイカれているのだ。だからバンドがどんな変化をしても軸がブレることはないし、その誠実さこそ、自分がPOLYSICSを聴き続ける理由のひとつでもある。
次に彼らがもたらしてくれる予想外の驚きは、現在製作中という新たな音源に表れるはずだ。今回のライブにポリの最新モードが反映されていると仮定すれば、3人体制になってよりソリッドかつ肉体的になったサウンドに加え、以前の楽曲に顕著だった捻くれたポップネスが加わり、また新たなPOLYSICSの音世界が広がるのではないか。正直、ここまでなんとか冷静に原稿を書き進めてきたが、実際はこの日のライブを観てからウズウズして仕方ないのだ。こんないいライブをやってくれるのだから、次の新作がよくないはずがない! 早く次のPOLYSICSが鳴らす音を浴びたい! と。
さらに注目すべきは、来年迎えるライブ通算1000本に向けたカウントダウン企画『MEMORIAL LIVE OR DIE!!!~祝!!! 1000本!!! 「おめでTOISU!」と言ってくれ!!!~』だ。996本目となる2月23日(木)の名古屋から、京都、大阪、東京・下北沢を周り、最終日の3月3日(土)のSHIBUYA-AXにて通算1000本目のライブを達成する。おそらく今回もきわめて律儀に誠実に、記念日にふさわしい特別なステージを用意しているはずだ(すでにメモリアルグッズのプレゼントも発表されている)。そしてそのステージは、それまでの999本のライブ以上に、どこまでもクレイジーでハッピーなものになるだろう。“まさかPOLYSICSがこんなバンドになるとは思わなかった”。またしてもそう思わせてくれるような圧倒的なパフォーマンスを、必ずや見せてくれるに違いない。そう思わせてくれるには十分すぎるほどの説得力が、この日のライブにはあった。
<SET LIST>
01.Heavy POLYSICK
02.Bleeping Hedgehog
03.シーラカンス イズ アンドロイド
04.MS-17
05.ハードロックサンダー
06.Mach肝心
-MC-
07.Shizuka is a machine doctor
08.ワチュワナドゥー
09.SPARK
10.Too Much Tokyo
11.WICKED LAUGH
12.ワトソン
13.Digital Dancing Zombie
14.ズーバーマン
15.MAKING SENSE
16.Don't Cry
-MC-
17.MAD MAC
18.Jumping Up and Clash
19.URGE ON!!
20.How are you?
21.Shout Aloud!
22.Smile to Me
23.Code4
EN1-1.Young OH! OH!
EN1-2.Boys & Girls
EN1-3.Let's ダバダバ
EN2-1.BUGGIE TECHINICA
LIVE
2/23(木) 名古屋CLUB QUATTRO
『1000本MO•KU•ZEN!! COUNTDOWN OR DIE!!! ~996本目!!! 暑い! うまい! 世界のポリちゃん!!! あともう4本!!!~』
チケットぴあ
2/24(金) 京都磔磔
『1000本MO・KU・ZEN!! COUNTDOWN OR DIE!!! ~997本目!!! おこしやす! マイコマイコHaaaan!!! あともう3本!!!~』
2/25(土) 十三ファンダンゴ
『1000本MO・KU・ZEN!! COUNTDOWN OR DIE!!! ~998本目!!! TOISUでおま! 大阪で生まれたポリやないけど!!! あともう2本!!!~』
チケットぴあ
2/29(水) 下北沢CLUB Que
『1000本MO•KU•ZEN!! COUNTDOWN OR DIE!!! ~999本目!!! やっぱ下北Que Que Que!!! あともう1本!!!~』
3/3(土) SHIBUYA-AX
『MEMORIAL LIVE OR DIE!!! ~祝!!! 1000本!!!「おめでTOISU!」と言ってくれ!!!~』
チケットぴあ