撮影/堀川高志

2012年に活動を開始、昨年8月には10周年記念イベントも開催したBSP(ブルーシャトルプロデュース)。最新作『織田信長』で2月24日(金)の初日に先立って、公開ゲネプロと囲み取材が行われた。本作はキャスト陣も「BSPらしい」と語る演出の数々が散りばめられ、これまで観てきたファンにとっては思い入れも深い、初めてBSPにふれる観客にとっては新鮮、そんな舞台となっている。

天正10(1582)年、6月。本能寺で織田信長は命を落とした。「本能寺の変」として知られるこの時が訪れるまでの間に、何があったのか。彼に仕える豊臣秀吉・明智光秀、同盟者・徳川家康、小姓・森蘭丸ら、信長と彼を取り巻く人々の思いをのせて、月明かりの下で幻の蝶が舞う……。

舞台セットはなく障子のみ、それを自在に動かして時間も場所も表現していく。映像投影で月は姿を変え蝶が飛び交い、日付や場所、歌詞もテンポよく映し出される。そして照明が俳優の姿を際立たせる。演劇ならではの手法が快い。

本能寺での幕開けから時を遡り、信長は息子たちと共に鷹狩をし、妹・お市を慈しむ。今川との戦いを前にして、妻・帰蝶の前でうろたえる。元はおおらかで優しく、時には気弱だった信長が、数々の戦いを経て「魔王」と呼ばれる男へと変貌していくのだ。

キャストはみな、各々の役割を的確に果たし好演。その中でも特に印象に残ったのは、やはり信長の松田岳だ。信長のさまざまな表情を見事に表現し、立ち姿の良さはもちろん、ダイナミックな立ち回りやいきいきとした歌に踊り、さらにはアドリブも繰り出すなど、自身のポテンシャルを十二分に活かした大きな存在感で、観る者を魅了する。

また秀吉の田中尚輝も、目を奪う敏捷な動きと共に、あっけらかんとした態度の一方しばしば暗い感情をにじませる振り幅の広さが素晴らしい。

本多忠勝はおなじみの「蜻蛉切」を振るい、信長も「三日月」を手にする、刀剣に関心のある者の心をくすぐるポイントも心憎い。

そして、この舞台は明確な1本のストーリーを描き出しているわけではない。信長にまつわる情景が、時間も場所も行き来しながら描写されていく。ひとつひとつのエピソードを組み合わせて「信長」というパズルを作り上げていくかのようで、興味深い。このパズルを完成させる最後のピースは観客自身だ。一人ひとりの心模様次第でできあがる絵柄を、じっくり味わえることだろう。

取材・文:金井まゆみ

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