2009年の初演、2010年のロンドン、ニューヨーク公演が話題を呼んだ『ムサシ』。かの有名な宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いのその後を描いた井上ひさしの戯曲を蜷川幸雄が演出した作品が、彩の国さいたま芸術劇場で上演中だ。今回佐々木小次郎役に抜擢された溝端淳平に話を訊いた。
初めて観た舞台が蜷川の『お気に召すまま』だったという溝端。「上京して3か月経ったか経ってないかの僕にとっては、何もかもが初めての感覚で、圧倒されました。ただ階段を上って下りるだけのシーンに、ぐんと惹き込まれたのを覚えています」と蜷川作品の魅力を語る。以来、蜷川作品にいつか参加したいと願いつつも「舞台は力量が露骨に表れる場所。いまの自分にはまだまだだと思っていました」。そんな溝端に『ムサシ』の話が舞い込んだ。
今回溝端が演じる佐々木小次郎は、初演で小栗旬が演じた大役。さらに溝端以外のキャストは前回と同じ。全員の芝居が出来上がっているところにひとり飛び込まなくてはならない。「小栗旬さん、藤原竜也さんといえば、僕ら世代の俳優にとって憧れの人。仕事を始めた頃は、それこそおふたりの演技をまねしてみたこともありました。だからものすごく緊張していますし、怖さもあります」と率直に話す溝端。しかし、だからこそ「とにかく飛び込むしかない、といまは少し開き直っています」と笑顔を見せる。「蜷川さんの舞台に出ることも、憧れの藤原さんとの共演も、自分の力がもっとついたらぜひやりたいとずっと思っていた。でもそれは今思えば逃げていたのかもしれません。せっかく機会を与えられたからには、精一杯やりきりたいと思います」と決意を新たにした。
今回の舞台では、歴史上の人物をユーモアたっぷりに演じなくてはならない。殺陣も初挑戦となる。「初めてのことだらけですが、僕はいつも、どんな現場でも困ったら先輩方にすぐ聞くことにしています。皆さん本当に真摯に教えてくださる。今回も怖がらず、なんでも聞いて吸収していきたい」と溝端。さいたまでの上演の後、大阪を経てシンガポール公演、そして来年には韓国公演も控えている。「シンガポールにはこの間、ひとり旅で下見に行きました。だから唯一シンガポールに関してだけは、カンパニーの皆さんより詳しいかもしれないですね」と笑った。若手実力派である溝端の初挑戦を、この目に焼き付けたい。
10月20日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて。その後、10月25日(金)から29日(火)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティでも上演。
取材・文:釣木文恵