4月12日(水)まで、IHIステージアラウンド東京で絶賛上演中の『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』。ゲームの歌舞伎化は史上初、さらに『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』を成功に導いた尾上菊之助が企画と演出を担うとあって、熱い注目を集める話題作だ。出演は、菊之助をはじめ中村獅童、尾上松也、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六、そして2022年の“ナウシカ”でタイトルロールを演じた中村米吉など豪華な顔ぶれ。主人公の父ジェクトを演じる彌十郎に意気込みを聞いた。
物語は、少年ティーダ(菊之助)が召喚士の少女ユウナ(米吉)に出会い、仲間たちと共に巨大な魔物「シン」に立ち向かうさまが描かれる。
「ジェクトはティーダの父親で、かつて“ブリッツボール”の花形選手だった男。身体能力は高いのに息子への愛情表現が下手で、ティーダから反感も買っている。不器用なヤツだなぁと思うんですが、それが彼という人物像のキーになっているとも感じるので、そこは意識して役づくりをしています」と彌十郎。さらに「劇中、ティーダたちはずっとジェクトの話をしていますし、ティーダとジェクトの親子関係は物語の中で特に重要な部分。主人公の父親であるという“大きさ”も忘れずに演じたいですね」と話す。
そんなジェクト役へのオファーは、菊之助からの1本の電話から始まったとか。「『新しいことをやろうと思っているんですが、ご協力願えますか』と。僕はゲームのことはよく分かっていなかったのですが、菊之助さんがおっしゃるのなら、もう喜んで。即答で『やらせていただきます』とお返事しました」と彌十郎は語る。「スーパー歌舞伎」や「平成中村座」など、歌舞伎界の新しい潮目に多く立ち会ってきた彌十郎ならではの即断力だ。
「たまたま自分のいた環境がそうだっただけなんですが……」と断りつつ、「ただ、若い頃から先輩達が新しく挑戦する姿を間近で見てきたので、新しいものに対して否定はせず、肯定から入るようにはしているかな。それにやっぱり自分が楽しまないと、お客様にも楽しんでもらえないので、出ると決めたからにはとことんやる。そうすれば、自然とお客様にも納得いただける舞台になると思っているんです」と笑顔を見せた。
本作の稽古場でも、役者同士の活発なディスカッションが楽しいと言う彌十郎。
「『ファイナルファンタジーX』について、周りの人に教えてもらったり、動画で観たりして研究しました。それで分かったのは、世界観が細かいところまで本当に魅力的で、それがたくさんの人に長く愛されている理由だということ。だから私のようにゲームを知らない方でも、普通にお芝居を観る感覚でいらしていただいて大丈夫です。逆にゲームから興味を持ったという方には、ぜひ“歌舞伎”への先入観をなくしていただいて。『ファイナルファンタジーX』の1つの新しい形として、この舞台を楽しんでいただければ嬉しいですね」
取材・文/藤野さくら