2023年の東京・歌舞伎座は、年頭から引き続き「歌舞伎座新開場十周年」と銘打ち、幅広い演目で客席をにぎわせている。上演中の「三月大歌舞伎」は、第一部(11時開演)がシェイクスピアの戯曲「リチャード三世」に着想を得て、1974年に宇野信夫が書き下ろした『花の御所始末』。第二部(14時40分開演)は、単独での上演が珍しい『仮名手本忠臣蔵 十段目』と、楽しい舞踊劇『身替座禅』。第三部(17時45分開演)は、大正から昭和期の歌人・吉井勇作の『髑髏尼』と、上方和事の代表作『廓文章 吉田屋』。古典から話題作、異色作まで楽しめるラインナップだ。

ここで注目したいのは、第一部の『花の御所始末』。約半世紀前に六代目市川染五郎(現・松本白鸚)で初演された本作に、松本幸四郎が挑んでいる。
舞台は美しい花木が植えられていることから、「花の御所」と呼ばれる足利幕府の室町御所。足利義満(河原崎権十郎)の次男・足利義教(幸四郎)は、将軍の座を手に入れようと、畠山満家(中村芝翫)と共に父を殺害する。その罪を兄の義嗣(坂東亀蔵)にかぶせて亡き者にし、将軍となった義教。その独裁ぶりは次第に狂気を帯び、浅からぬ縁の満家まで手にかけてしまう。数年が経ち、父や兄の亡霊に毎夜苦しめられる義教は……。

幸四郎は、暴君と怖れられた義教を大胆かつ繊細に表現。前半は、邪魔者を次々と殺め、ベッタリと付いた返り血も鮮やかに欲望のまま突き進む“悪の華”を舞台に立ち昇らせる。将軍の座についてからの後半は、義教の恐怖政治に不満を訴える大名や農民へ冷ややかな態度を保ちながらも、どこか惑うような、虚ろな表情で心情を垣間見せる。最期は炎に包まれ、ドラマチックな幕切れ。義満役・権十郎の器の大きさ、義教の妹で運命に翻弄される入江役・中村雀右衛門の芯の強さと儚さ。満家役・芝翫のしたたかな色気と、その息子で謀略に巻き込まれる左馬之助役・市川染五郎の清廉さも印象に残った。

そのほか第二部は、『~十段目』のひそかに赤穂浪士に協力する廻船問屋の天川屋義平役に、芝翫。“男の中の男一匹”、“天川屋義平は男でござる”の名ゼリフを聞ける貴重な機会だ。さらに尾上松緑の大名・右京と中村鴈治郎の奥方玉の井で、チャーミングすぎるふたりのやりとりが文句なしに面白い『身替座禅』。
夜の第三部は、大正から昭和期の歌人・吉井勇の原作で、こちらも61年ぶりの上演となる『髑髏尼』のタイトルロールに、坂東玉三郎。相手役の中村福之助と共に、吉井の耽美的な世界観を繰り広げる。そして玉三郎と片岡愛之助で上方和事の華やかさを存分に堪能できる『~吉田屋』と、まさに多彩な演目ぞろい。どれも見逃せないこと請け合いだ。

取材・文/藤野さくら