マリー・キュリーという、放射性元素の研究で大きな功績を残した科学者の姿を描いたミュージカル。
アカデミックな内容がかかわるだけに、とっつきにくそうなイメージがないとは言えない。だが実際に公演(ゲネプロ)を通して感じたのは、知的探求心に富んだマリーのまっすぐな生きざま。彼女の研究への情熱が、夫・ピエールへの愛と信頼が、そして友・アンヌとの交流や研究をとりまくさまざまな物事への思いが、ドラマティックなメロディーで紡がれていく。
キャストも各々の役割をきっちりと見せている。ゲネプロ前の囲み取材でマリー役・愛希れいかは「ミュージカルだけれどもとても演劇的な作品」、演出・鈴木裕美は「一人ずつの人間が浮き上がってくるように」と語っていた。それが見事に表現され、見ごたえがある。
本作は「Fact(歴史的事実)×Fiction(虚構)=ファクション・ミュージカル」と銘打たれている。Factがマリーの研究に没頭する姿やピエールとのパートナーシップ、そして彼女が発見したラジウムを巡る葛藤であるならば、Fictionの多くはルーベンとアンヌについての造形だろうか。
ルーベンはマリーの研究の後援者でラジウム工場のオーナーだが、時には狂言回しであり、メフィストフェレス的な、いわばマリーの“影”だ。演じる屋良朝幸も「遠い世界へ」など自身の振付によるダンスナンバーを含め、多面的な存在感を放つ。
一方アンヌはマリーの親友として彼女に寄り添い、“光”の部分を担っているかのよう。パリに向かう列車での出会いでマリーの志を示す「すべてのものの地図」、追い詰められた状況下で心を通わせる「あなたは私の星」と、印象的なデュエットも多い。清水くるみの明るさと健気さ、時には凛々しさもある佇まいが魅力的だ。
ピエール役の上山竜治も好演。自身もこれまで演じてきたなかで「一番優しい役どころ」だと語る、懐の深い夫で研究者としてもかけがえのないパートナーだ。マリーとピエールの「予測不能で未知なるもの」は、清水が「稽古場でも泣いちゃうぐらい好き」と語ったのも納得がいく、素敵なナンバー。
そして何より、愛希の輝きが素晴らしい。安定した歌唱はもちろん、時には悩み苦しみながらもひたむきに生きるマリーとして、観る者を惹きつける。まさに“はまり役”で、ぜひ公演を重ねてマリーをさらに深化させていってほしいと願わずにはいられない。
取材・文:金井まゆみ