アマゾンジャパン Amazonデバイス事業本部の前田隆志事業部長

コロナ禍でオンラインの売れ行きが好調だった中、ネット専業のAmazonはオフラインである家電量販店の開拓に力を注いでいた――。Fire TVやEchoシリーズなどAmazonデバイスを取り扱う店舗数は、2019年と比較して2倍の約8590店に膨らんでいたのだ。なぜAmazonはオフラインの開拓に力を注ぐのか。なぜ家電量販企業は敵視していたAmazonを受け入れたのか。アマゾンジャパン Amazonデバイス事業本部の前田隆志事業本部長に聞いた。取材/細田 立圭志 風間 理男 文/細田 立圭志

オフラインでも「セレクション」「スピード」「プライス」を実現

――新型コロナ前の2019年にBCNで取材した際は、Amazonデバイスを取り扱っている家電量販企業はビックカメラを皮切りにエディオンやケーズデンキ、上新電機でした。また、イオンや蔦屋家電、ディスカウントストアのドン・キホーテでも扱っていました。現在、オフラインのチャネルはどこまで拡大していますか。

前田 コジマさんやヤマダデンキさんのほか、ゲオさんといった新しいチャネルにおけるタッチポイントも増えています。店舗数では約2倍の8590店舗に増えました(23年3月現在)。Fire TVシリーズは約1800店から約3600店、Echoシリーズは約1400店から約2400店、Fireタブレットシリーズは約670店から1900店、Kindleシリーズは約150店から約370店、Ringシリーズは純増で320店です。

――主要家電量販店やネットショップからPOSデータを収集している「BCNランキング」によると、コロナ禍のテレワーク需要などでネット比率が伸び続け、その結果、22年7~9月の金額ベースでは40.8%と、初めて4割を突破しました。Amazonデバイスも同じようにネット経由で売れていたのではないですか。

前田 もちろんネットでも売れていますが、Amazonデバイスはまだニッチプレーヤーなので、パートナーのオフラインの方が販売台数のボリュームは大きいです。ブリック&モルタルのオフラインが増え、おしなべて見ればネット経由の販売比率は4割まで達していません。

――コロナ禍でオフラインを開拓していたのは意外ですが、なぜAmazonがオフラインに力を入れるのですか。

前田 確かにコロナで外出できなかったので、オンラインで購入するケースが増えたかもしれません。しかし一方で、家電量販企業がオフラインで出店しつづけているのは、そこにニーズがあるからです。店舗でしか家電を購入しないお客様も多くいらっしゃいます。

私が2015年にAmazonに入社してすぐのときに教わって印象に残っているのは、Amazonで大切にしている「セレクション(品揃え)」、「スピード(当日・翌日配送)」、「プライス(価格)」の三つです。

スピードでいえばAmazonのロジスティクス周りを想像するかもしれませんが、例えば今、沖縄県では30店舗でAmazonデバイスを取り扱っています。ネットで翌日配送もできますが、近くの店舗に行けばすぐに購入できます。これがわれわれの考えるスピードなのです。量販店がなければ結局、お客様を待たせてしまう。とても重要な部分を量販店に担っていただいています。

また、Echo Dotはソフトボールぐらいのサイズですが、Echoはメロンぐらいです。EC上で製品画像のサイズを変えたり工夫していますが、店舗で確認できるわかりやすさにはかないません。Kindleシリーズの軽さも、実際に触ってみないとわからないし、スピーカーの音も聞かないとわからない。

オンラインでエクスペリエンス(体験)を提供できるのはサイトだけです。オンラインはテキストやビデオなどの一方通行ですが、わからないことがあれば店員さんに聞いた方が早いですよね。

お客様のことを考えれば、オフラインのパートナー様と一緒に販売させていただくことはAmazonにとって絶対的に必要なことなのです。実際、先日もAmazonのグローバルでのデバイス事業トップで上級副社長のDave Limp(デイブ・リンプ)が来日した際も ビックカメラさんの有楽町店を公式に視察しています。海外の上司は、来日したら必ず量販店に立ち寄ります。それだけAmazonはオフラインも重視しているのです。

潮目を変えたヤマダデンキの「FUNAI Fire TV搭載スマートテレビ」

――とはいえ、少し前まで家電量販企業とAmazonは敵対関係にあったと認識しています。量販店側の抵抗も大きかったのではないですか。

前田 もちろん、量販店様にとって「何の利益があるのか」は重要なポイントです。競合のデバイスをなぜ売らなきゃいけないのかと。最初の頃はなかなか首を縦に振っていただけませんでした。

潮目が変わったと感じたのが22年2月にヤマダデンキさんが、FUNAIブランドでFire TV搭載の「FUNAI Fire TV搭載スマートテレビ」を販売したときです。お互いにとって新しい客層を開拓できると思われたのではないでしょうか。お互いのエンゲージメントのレベルが第二フェーズに入ったと実感しました。一緒にどのように開拓すればいいのか話し合えるようになったのです。Alexaを使った未来を見据えて、いろんなことができると考えて付き合ってくださっているのだと思います。

ビックカメラさんも、15インチのスマートディスプレイ付きのEcho Show 15を発売したときに独自でニュースリリースを出してくださいました。そんなことは今までありませんでした。「面白いからリリースを打たせてほしい」とご提案いただけるようになったのです。

「Amazonは競合」というのではなく、Amazonデバイスを取り扱うことで得られるメリットや、お客様のニーズをどのように一緒に開拓してくかについて共通の課題に取り組んでいる状況です。

「スマートホーム」で新たな市場を創造する

――具体的にAmazonデバイスを扱うことで、オフラインにおける顧客とのエンゲージメントにどのような変化が生まれるのでしょう。

前田 通常の家電製品に比べれば、Amazonデバイスは単価も粗利益額も低いです。ではどこに魅力があるかといえば「スマートホーム」です。Fire TVシリーズやFireタブレットシリーズ、Echoシリーズ、Ringなどで、エアコンやテレビだけでなくカメラでガレージの様子を見たり、家のものがつながっていきます。家電製品を声で操作するという、これまでとは違った新しい体験を提供できます。

Echo Showシリーズなら顔認証によるビジュアル判断で、個人別にメッセージを変えることができます。また、Echo Dot2台とFire TVシリーズがあればテレビから出てくる音がステレオになります。接続や設定も思っているより簡単で、アプリの方から「つないでみてはいかがですか」と提案してくれます。

まだアプリからヒアリングするというワンクッションが入りますが、ここから先の技術をわれわれはアンビエント・テクノロジーと言っています。アンビエントになると、デバイスがお客様よりも先回りして最適な環境に設定してくれるようになります。

量販店様もこの領域に共感いただけているのではないかと考えています。今つながらない家電も、つながっていく。声で操作するだけでなく、部屋の環境を検知しながらデバイスが判断する。こういう新しいライフスタイルに可能性を見出していただけているのではないかと。

スマートホームの大きな波は確実に来ています。EchoシリーズやRingを追加で2台買い増しするなど、既にそのシグナルをわれわれはキャッチしています。お客様もそろそろ本腰を入れてスマートホーム化しようと思いはじめているように感じます。

――確かにスマートホームはHEMSなどのプロトコルの違いがあったりして新築や戸建て住宅のイメージが強いですが、業界統一のオープンソース接続規格のMatterが出てきたことで、後付けでもスマートホーム化できるようになってきますね。

前田 はい。10年前に購入したテレビにFire TV Stickを挿せばスマートテレビになります。Alexaアプリ上で登録されていれば、古いエアコンの電源も声でオン・オフ操作できますし、カーテンの開け閉めもできます。「カーテンなんて手で開けたらいい」と思うでしょうが、一度体験すると快適でやめられなくなります。

新築じゃなければスマートホームにならないというのは間違いで、今の家でもスマートホームになるのがEchoシリーズやFire TVシリーズが受けているところだと思います。もちろん、スマートホームで家電同士がネットワークでつながっていけば、新しく家電を購入する機会も増えるはずです。

「オンラインかオフラインかではない」

――「スマートホーム」での協業は理解できましたが、経営戦略の面からオフラインはアセットビジネスなので非効率な面もあります。それに対し、ECは物流など足回りに経営資源を投資して効率よく運用します。その最右翼がAmazonだと思うのですが、なぜ非効率なところを攻めるのでしょう。

前田 非効率か効率かではなかなか比べられませんが、1本売るのにどれだけ力がかかるかといえば、量販店さんの方がかかるかもしれません。しかし、量販店だけにアプローチするお客様もいます。多様なお客様にセレクション、スピード、プライスを届けるのがわれわれの使命なので、片方だけというのはバランスが悪いです。オンラインかオフラインかではないのです。

――少し視点を変えて質問すると、量販店は店員や店舗などに依存する部分があり、販売の質が均一かといえばそうではありません。均一でないところに商品を託すのはAmazonの経営ポリシーと合致するのでしょうか。

前田 面白いですね。オンラインでは1本売るクオリティは完全に均一で統一されていますね。一方でオフラインは首都圏と地方でもばらつきがあるのかもしれません。しかし、そこにお客様が暮らしていらっしゃる以上、なんとかしてタッチポイントを持つ必要があるのです。オフラインの販売の質を上げるために、3分間の提案トークをトレーニングしたり、製品を使わずに語れない部分もあるので、とにかく使ってもらったりと、細かな活動も展開しています。

おしゃる通り、均一ではないところで売ってくださいというのはなかなか困難が伴います。大手メーカーはそれこそ店舗の近くに営業所があるので足しげく通えますが、われわれが同じことをやってはいけません。彼らは1台売ったら50万円でも、われわれは1万円や7000円の単価です。そうした中でいかに効率を上げていくか、お客様とのタッチポイントを増やしていくかに知恵を絞らなければいけません。

量販店様と話をしていると、売り方も店舗の在り方も変化していっていると感じます。家電だけでなく酒類も家具も扱いながら、お客様の生活がどのように変わっていくかを提案していますよね。5年、10年で量販店様も大きく変わると思います。Amazonもオンラインの手を抜きませんが、これからも量販店様と長く付き合っていきたいと考えています。

アマゾンジャパン Amazonデバイス事業本部 事業本部長 前田 隆志(まえだ・たかし)

現在、Amazonデバイス事業本部の事業本部長として日本で急成長するデバイス事業全体のGTM戦略を統括。オーストラリア・ニュージーランドおよび中国のAmazonデバイス マーケティング&セールスも統括。2015年にAmazonに入社以来、セラーサービス部門で日本独自の機能をセラーに提供するPlatform & Technology事業のディレクターを経て、ハードライン事業部にてベンダーとの協業促進によりPC/Display/Camera/Accessoryなどのカテゴリーでのリテール事業の拡大に貢献。直近ではシアトルにて、お客様に最適なオーダー体験を提供することを可能とするPerfect Order Experienceチームでグロバールプログラム・オペレーション部隊を率いた。Amazon入社前は、日本と米国のMicrosoftでソフトウェア及びハードウェアの製品戦略及び事業担当を勤めた

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