撮影:源賀津己

2023年の春も、鶴瓶噺の季節がやってくる。「日常で起こる本当の出来事が一番おもしろい」と語る男が、日々残しているメモからチョイスしていたのは285個の鶴瓶噺の素。2022年のエピソードからの厳選した数である。あらゆる出来事があっという間に過去になるスピード狂の時代に、笑福亭鶴瓶は焦らずゆったりと今日も自然体だ。2022年を振り返って、真っ先に思い浮かんだというキーワードも“らしい”ものだった。

「2022年は……友達が増えました。『A-Studio+』とか『鶴瓶の家族に乾杯』といったテレビの仕事は、たくさんの人と出会うでしょ。すると、友達が増えていく。2022年はドラマや映画もあったから、そっちでもそうなんです。『しずかちゃんとパパ』というドラマでは、耳が聞こえない父親役で全編手話だったんですね。その現場では手話を教えてくれた人たちと仲よくなれてうれしかったんですけど、とにかく厳しかったんです、うちのマネージャーが。同時進行で映画の現場も入っていてヘトヘトなのに『手話、練習しましょう!』と。『いいけど、俺、死ぬよ』と小声で言いましたからね(笑)。じゃあ、映画の現場はどうだったかといえば、マイナス14℃で。極寒のなか、コートもなんもなしにタキシード1枚で逃げ惑うという役でした。自分でもよう生きてるなぁと思います(笑)」

2022年を振り返って「友達が増えた」と真っ先に口にできる人生。そもそも、70歳をすぎて友達が増える人がいったいどれほどいるのか。漢字なら唯一無二、英語ではワン&オンリー。そんな芸人の冠番組ならぬ冠芸である鶴瓶噺に、弱点などあるのだろうか。

「昔、落語のことを聞かれて『笑福亭鶴瓶<落語』と答えたことがあるんです。やっぱり、長い歴史と深い伝統がある落語という存在はとてつもなく大きい。でも、こっちは『笑福亭鶴瓶=鶴瓶噺』で完全にいっしょ。鶴瓶噺と僕はイコールなんです。だからこその強みもあるとは思うんですけど、落語と違って型がないでしょ?型のない芸って、続けないとダメなんです。仮に、型のない芸を無手勝流と呼ぶのならずっとやり続けているからこそ無手勝流であって、やめた途端に無手勝流とすら呼ばれなくなると思うんです。鶴瓶噺だって、今年が最後となったらその瞬間は笑ってもらえるかもですけど、すぐに色褪せてしまうはずですから」

鶴瓶噺は、点ではなく線でこそ楽しみが増すのか。30年後の100歳での鶴瓶噺を想像しながらの2023年版は、必見にして必聴の予感がする。

取材・文:唐澤和也