撮影:五月女菜穂

実在した男の数奇な生涯を描いた舞台『ブレイキング・ザ・コード』が4月1日(土)から東京・シアタートラムで上演される。

舞台は第二次世界大戦後のイギリス。エニグマと呼ばれる複雑難解なドイツの暗号を打ち破り、イギリスを勝利へと導いたアラン・チューリング。しかし、誰も彼の功績を知らない。この任務は戦争が終わっても決して口にしてはならなかったのだ。そしてもう一つ、彼には人に言えない秘密があった。同性愛者が犯罪者として扱われる時代、彼は同性愛者だった。あらゆる秘密を抱え、どんな暗号も解き明かしてきた彼が、人生の最後に出した答えとは......。悲運の死を遂げた彼の生涯を少年時代、第二次世界大戦中の国立暗号研究所勤務時代、晩年と時代を交錯させながら描いていく。

本番まで1ヶ月を切った3月上旬、都内近郊で行われている稽古場を取材した。

この日は頭と身体をほぐすゲームから。出演者らが円になって、互いの呼び名を決める。例えば、主人公のアランを演じる亀田佳明は「かめちゃん」といった具合に。名前を呼ぶ順番を決め、それが一巡したら、次は指を鳴らす合図を受け取った人が、次の人に向けて指を鳴らす(「名前」の順番と「指鳴らし」の順番は違う)。指を鳴らす動作が一巡したら、次はボールを受け取った人が、次の人に向けてボールを渡す(「ボール」の順番もまた違う)......。

一つ一つの動きは単純で、規則性があるが「名前を言う」「指を鳴らす」「ボールを渡す」といった複数の動作が同時並行的に進められると、見ている側としては超カオスな状態。だが、出演者らは体と頭をフル回転させながら、冷静にゲームを進める。誰一人足を引っ張る者はおらず、皆が驚くべき集中力を発揮していた。

30分ほどでゲームを終え、続いては作品の冒頭、アラン(亀田)とミック・ロス(堀部圭亮)の2人のシーンからの稽古。一旦最後まで一通りの稽古を終えており、これからより内容を深めていく段階のようだ。シーン全体を通し、それを見た演出の稲葉賀恵は、演出席から俳優のもとに駆け寄り、観て感じたことの「シェア」を行う。

印象的だったのは、演出の稲葉のテンションの高さ。登場人物になりきって心情の流れを語るかと思えば、一歩引いて演劇としてどう見えるかを語る。俳優たちの芝居の意図を聞き出して一緒に“正解”を探したり、「その方向性です!」「めっちゃいいじゃないですか!」と惜しみなく芝居を褒めたりして、稽古場の雰囲気を稲葉が作っていると感じた。俳優たちも芝居好きの実力派ばかりなので、その稲葉の期待と要望に楽しげに応えていた。

すべてを見てはいないが、アラン役の亀田はとても繊細な芝居だった。動きやセリフの一つ一つの意味を咀嚼し、丁寧に積み重ねている印象で、これらが物語の中でどう見えてくるか。とても楽しみだ。公演は4月23日(日)まで。ぜひお見逃しなく!

取材・文:五月女菜穂