舞台正面にソファーが置かれたリビングルーム。この家の住人である主人公のアンリ・ド・サシー(今江大地)がここで父エドモン(岡森諦)と話している場面から、話は始まる。大叔母の遺産を相続するためには、結婚することが条件だと知ったアンリ。女好きで誰かひとりを選んで結婚なんてできないという彼に、親友で弁護士のノルベール(緒形敦)は偽装の同性婚を提案。幼なじみで売れない俳優のドド(富本惣昭)を巻き込み、1年間の偽装結婚生活を始めることに。

ドドがアンリの父とは知らぬままエドモンに応対した結果、エドモンの意外な姿が明かされる。またアンリと交際中のエリザ(清水麻璃亜)が来た時は、ふたりが兄弟だと偽るはめになる。さらにノルベールの離婚問題もからみ、ふたりの偽装結婚はあらぬ方向へと……!?

アンリとドドを中心とした、なんとかその場をやり過ごそうとすることがさらに混乱を引き起こしていくシチュエーション・コメディーだ。
テンポの良いかけあいを見せるキャスト陣の中でも、アンリの今江はコミカルな表情と声の変化、ダイナミックな動きが印象的。パンツ一丁になる場面もあり、それも含めてまさに体当たりの熱演だ。アンリというキャラクターが観客に受け入れられるかどうかがこの作品の成否を握っているのではないかと思うが、今江の愛嬌あふれる持ち味がそれを可能にしている。

ドドの富本も、オタクっぽさ全開の登場から主夫らしさあふれる立ち振る舞いへ、そして終盤では以前自分が演じた役柄(ブタ)の着ぐるみを身に着けるなど、変化の大きな役をいきいきと演じる。表情やしぐさなど細やかな演技で笑いを誘う。特に着ぐるみ姿の可愛らしさは特筆もの。
スマートな紳士ぶりを見せるノルベールの緒形は、離婚問題でブチ切れる振り幅が見もの。エリザの清水は、良い意味でごく普通の女性をナチュラルに表現。そしてキャストの要となっているのは、エドモンを演じる岡森。厳格な父親かのように見えて息子に長年隠していたことをカミングアウトするとガラッとノリが変わる彼の安定感が、他の若い4人を支えていた。

それぞれに前向きな結末を迎えるハッピーエンド。キャストの奮闘を称える拍手と「面白かったね」という観客の笑顔が、このひと時がかけがえのないものであると物語っていた。舞台に飾られたカップルのぬいぐるみからも伝わる(ぬいぐるみのみ撮影可、「#ルゲィ」に注目)、面白可愛い公演は4月16日(日)まで。

取材・文:金井まゆみ