撮影:五月女菜穂

定年退職後の家庭を描き、映画化もされた小説『終わった人』。本作を原作としたリーディングドラマ『終わった人』が8月から上演される。

50歳で窓際部署に飛ばされ、そのまま定年退職を迎えた主人公・田代壮介を中井貴一、そして愛人にしようとするがどこまでいっても“メシだけオヤジ”を卒業させてくれない久里、すべてを見通している娘・道子、カッコイイバーのマダム・美砂子、さらに妻・千草をすべてキムラ緑子が演じる。

この度、本作の取材会が行われ、出演する中井、キムラのほか、原作者の内館牧子が登壇。

原作について、内館は「勤めている人なら誰もが経験すると思うが、サラリーマンには定年というのがある。 それまでどんなにいい仕事をして、華々しく最前線にいようとも、外から『もう終わりですよ、次の人に譲ってください』と言われる。本当はもっと仕事がしたかった、もっと人の役に立ちたかったのに、もう世の中的には『終わった人』になってしまう。そこの悲哀を書きたいと思った」と話す。その上で「今回の朗読劇のお話をいただいて、正直嬉しかった。私が向こう見ずに書いたことをお二人がどうやってくれるのか、すごく楽しみ。朗読劇そのものは、力のある俳優さんじゃないとできないと思うし、その意味でも幸せ」と期待を寄せた。

現在61歳の中井は「ちょうど同級生たちが定年を迎えたり、『終わった人』と言われたりする時期。時々友人から電話かかってくると、役員になってる人間たちは『ちょっと延長して......』なんて言いつつ『あと2年で俺も終わりだよ』と。『終わり』という言葉を使うような年齢になった」と語りつつ、「僕たちの商売は終わりがない商売だから、 友人たちの気持ちをふまえ、この年代の悲哀を伝えつつ、エールとして、この朗読劇ができたら面白いんじゃないか」と思いを述べた。

中井と同い年のキムラは「ちょっとずつ終わっている感じがある。今6割ぐらい終わっているかな。例えば、リハーサルのときも老眼だから台本を持てなかったり、山登りがきつくなってきたり。そういう部分は受け入れていかなくてはどうしようもない。少しずつ受け入れながら、終わりに近づいてる感じ」と自己分析しつつ、本作について「本当に全ての方に観てもらいたいと思うばかり。登場人物のみんなは性別も年齢も違うが、それぞれにドラマがある。どこかに自分が焦点を当てて観ることができる作品だと思うので、みなさんがどこを拾って、何を感じとるのか、皆さんに聞いてみたい。いろいろな方に観てもらいたい」と話した。

プレビュー公演は8月23日(水)、亀戸文化センターカメリアホール。東京公演は8月31日(木)〜9月3日(日)草月ホール。そのほか全国7カ所ツアー予定。

取材・文:五月女菜穂