撮影:(C) 松竹株式会社

春爛漫の4月、歌舞伎座新開場十周年記念「鳳凰祭四月大歌舞伎」では、心浮き立つ3演目が上演中だ。昼の部(11時開演)は、2013年に新開場した歌舞伎座で初めての新作歌舞伎として上演されたものを、古典歌舞伎の手法で一新した『新・陰陽師』。夢枕獏の原作を、石川耕士の監修と市川猿之助の脚本・演出で贈る。そして夜の部(16時開演)は、世話物の名作『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』を、片岡仁左衛門と坂東玉三郎の人気コンビで。さらに獅子の親子の情愛を描いた舞踊『連獅子』を、尾上松緑・尾上左近という実の親子が勤めるのも話題だ。

どれも見逃せない3演目のうち、今回は昼の部『新・陰陽師』をピックアップ。次代を担う花形俳優(期待の若手)がズラリと顔をそろえ、2023年度版“陰陽師”の世界が生き生きと展開されている。
時は平安時代。故郷の東国の民を救うため、朝廷に反旗を翻した平将門(坂東巳之助)は、朝廷から遣わされた旧友・俵藤太(中村福之助)に討たれる。将門の蘇生を謀る軍師・興世王(尾上右近)と妖術遣いの陰陽師・蘆屋道満(猿之助)に、陰陽師の安倍晴明(中村隼人)と友人で笛の名手である源博雅(市川染五郎)らが立ち向かう……というストーリーだ。
安倍晴明を主人公にした夢枕獏の原作は、1990年代のコミック化や2000年代の映画化によって、一大ブームとなった。本作でもそのワクワクするような世界観はそのままに、晴明と将門の空中戦や、巨大なガマガエルと可愛らしいキツネたちを使った妖術戦、アクロバティックな立廻りに道満の宙乗りと、アッと驚く演出が盛りだくさん。初めて歌舞伎を観る観客にも楽しめる内容となっている。

同時に、脚本・演出の猿之助が「古典歌舞伎仕立てでお送りいたします」と筋書(プログラム)で語っているとおり、随所に歌舞伎らしい様式美がちりばめられているのも『新・陰陽師』の魅力だ。それぞれの見せ場に“あの演目のあの場面”を思い出させる演出があり、それを表現するには、むろん演者の力量が必要。巳之助の人ならざる者のオーラ、福之助のさっぱりと清廉な佇まい、右近のケレン味たっぷりの躍動感。さらに将門の妹の滝夜叉姫役・中村壱太郎のたおやかさと強さ、藤太と恋仲である桔梗の内侍役・中村児太郎のひたむきさ、後半で登場する大蛇丸役・中村鷹之資の凛々しさは、猿之助の意図に充分に応えて舞台に厚みを加えている。

隼人は聡明さと器の大きさを感じさせる晴明を、染五郎は滝夜叉姫にひと目で心を奪われてしまう、親しみある博雅を好演。29歳と18歳の瑞々しいコンビは、メディアでも人気の2人ということもあり、“並びの美しさ”がもうひとつの見どころだ。そんな花形俳優たちの間で、猿之助はポイントリリーフ的な出番ながら、いかにも怪しげな道満を演じて観客を一気に引き込んでゆく。まさにさまざまな“歌舞伎の面白さ”を味わわせてくれる舞台といえよう。

取材・文/藤野さくら