明治座創業百五十周年記念「市川猿之助奮闘歌舞伎公演」と銘打ち上演されるのは、映像作品でも大活躍の猿之助が主演と共同演出を勤める2演目。昼の部は先代の猿之助(現・猿翁)が宝塚歌劇団の植田紳爾に依頼して作ったという“歌舞伎レビュー”『不死鳥よ 波濤を越えて』。夜の部は「三代猿之助四十八撰の内」から猿之助の6役早替りが楽しめる『御贔屓繋馬』。中村壱太郎や中村米吉、中村隼人ら今を時めく若手俳優を配し、中村鴈治郎や市川門之助ら重鎮が舞台を引き締める豪華版。気になる内容を猿之助と隼人に聞いた。
『不死鳥よ~』は壇ノ浦の戦いで戦死した平知盛(猿之助)が、実は海を渡って生きていたという設定のもと展開されるレビュー(※台詞ではなく歌と踊りのシーンで進行してゆくショー形式のステージ)。
猿之助は「レビューをやるのは初めてなんですが、歌劇でも振付経験のある藤間勘十郎さんに演出と振付に入っていただいたので不安はないです。あとは楽曲で、音楽って特に時代を映し出すものじゃないですか。だからミュージカルも多数担当されている玉麻(尚一)先生と相談して新しい楽曲を作っているところ。僕も含めて役者も歌うので楽しみにしてもらえれば」と笑う。
隼人も「資料映像を観たら本当に“男版宝塚”で見どころ満載。初演になかったという知盛と若狭(壱太郎)のシーンも、猿之助さんはどう演出されるんだろうと今から楽しみです」と語る。
一方の『御贔屓~』は四世鶴屋南北の原作を、先代の猿之助と奈河彰輔の手で1984年に明治座で上演、大評判となった演目。今回は公演最終日に『御贔屓~』の配役を猿之助と隼人が入れ替わりで勤めるのも話題だ。
「まさか猿之助さんのお役をさせていただけるとは夢にも思っていなかったので、驚いています。幸いなことに公演中は間近で猿之助さんの姿を見て学べますし、今こういう事をさせていただける意味を感じつつ、次の課題にも精一杯ぶつかっていきたい」と表情を引き締める隼人。猿之助から「まずは女方だね。木偶の坊になっちゃうか、ちゃんとした女方ができるのか」(早替りの6役に女方があるため)と、からかいつつも愛情たっぷりの声が飛ぶと、隼人も「女方は7年ほどやっていないですが、その間に多少は他の力を付けられたのではないかと自分を信じて。稽古場で打ち拉がれながらも(笑)、頑張りたいです」と語った。
若手俳優を多く配していることを問われると「今を盛りと咲いている人には、自分が一番いい状態のときに(芸を)教えたい。伝統芸能って1年や2年じゃ教えられないものなので、10年、20年先を見据えてね。僕はここからがスタートだと思っているんです」と真剣な表情で話す猿之助。演者たちが生き生きとぶつかり合う5月明治座はまもなく開幕。

取材・文/藤野さくら