撮影:上原タカシ、友澤綾乃
劇団四季の創立メンバーで2018年に逝去した演出家・浅利慶太の生誕90年に寄せる第一弾作品、舞台『オンディーヌ』が4月29日(土・祝)自由劇場で開幕した。劇団四季による初演(1958年)は、浅利をはじめ当時の劇団員たちの悲願だったとも言われ、以来、専用劇場のこけら落としシリーズや浅利慶太プロデュース公演の初陣を飾るなど、数々の節目に上演されてきた演目である。
本作はフランスの劇作家ジャン・ジロドゥによる、水の精オンディーヌと遍歴の騎士ハンスの純愛物語。命と記憶を引き換えにした許されぬ恋であったが、次第にハンスはかつての婚約者ベルタへ心を傾けてしまう。ハンスをなおも愛するオンディーヌは自ら姿を消すが、二人には運命的な結末が待ち受けていた。
タイトルロールのオンディーヌを演じるのは、再演版演出も担う野村玲子。透明感と軽やかさを備えつつも、無限の存在感が満ち溢れている。自由奔放で素直、嘘をつかず、無条件に人を愛するオンディーヌの姿は、そう在りたい(だがそう在れない)人間たちの憧れそのものなのかもしれない。
純粋で無垢、永遠を生きるオンディーヌと、移ろいやすく愚かで有限を生きるハンス。完全無欠な自然を前に人間の弱さや愚かさを浮き彫りにする一方で、その自然(オンディーヌ)から人間は愛されているという真理を教えてくれる。人間は愚かだけれど、だからこそ愛おしい存在であり、私たちの人生は生きるに値するものなのだと胸を打つ。浅利がその演劇人生を通して訴え続けてきたメッセージが、この舞台からも放たれていた。
3幕構成の本作、幕毎に様変わりする舞台セットもみどころの一つだ。森の中の漁師小屋、王の宮殿、ハンスの城と、まるで異なる3つの物語かのように観客を作品の世界へ誘う。また音楽やダンスも魅力的で、幕間狂言では本格的なオペラを見ているかのようだし、外連味あふれる演出も見逃せない。台詞は詩的で美しく、幻想的でドラマチック、喜劇要素も悲劇要素もある。ストレートプレイの枠に収まらず、演劇の面白みをこれでもかと詰め込んだ浅利演出の真髄がここにあった。公演は5月6日(土)まで。







